「俺は――お前に巻き付く全ての"いばら"を無効化出来る。

だからお前の心は…"足手纏い"の玲を弾くだろう」



何、その自信。

あたしの心はあたしがよく知っている。


玲くんは、あたしが選んだ人だ。

玲くんがあたしを突き放すことがあっても、あたしは玲くんから離れない。

だからこそ、あたしだって強くなろうとしているんだ。

共に、走るために。



「玲の元では、お前は走れない」

「黙れ!!!」


パシン。


あたしは咄嗟に平手打ちを見舞う。


久涅は一瞬翳った顔をして俯いたが、それは刹那の時間のこと。

ぎらりとした切れ長の目があたしに向いた。



「憎悪でもいい、俺を受入れろ。

"約束の地(カナン)"での時のように、"俺"を見ろ」



あたしを射貫くような漆黒の瞳。


深い深い闇の色が、あたしをその色に染め上げようとする。


闇。

闇。

何処までも漆黒の闇。



「櫂の立ち位置に…

玲ではなく俺を入れろ」



……違う。


この漆黒色は闇の色ではない。

まとわりつくこの闇は…ただの"孤独"の色。


「俺を…選べ、芹霞」



あたしは、真なる闇の色を知っている。

あたしは闇という存在を知っている。


この男の持つ色は――



「"真似"しないで」



贋物だ。



「俺が"真実"だ!!!」



久涅が、恫喝のように声を荒げる。



「俺を…よく見ろ!!!

俺はお前の敵じゃない。

俺をもう拒むな!!!



俺は、俺は――!!!!」






「何だっていうんですか? 久涅さん」




愉快そうな声。

振り返れば、いつの間にか窓に寄りかかっている――



「計都……?」



オッドアイが、こちらを冷めた顔で見ていた。




◇◇◇


《UpperWorld007》