「では、私はこれで……」
今井は頭を下げて、俺に背を向ける。
「な、なぁ!」
「はい?何でしょう?」
振り向いた今井は無表情でそう聞いてくると、少しだけ頭を傾けた。
「あ、あのさ……ハンバーグ……」
「ハンバーグ?」
「ハンバーグって、材料何?」
俺がそう聞くと、今井は少しだけ目を見開いた。
「先生、ハンバーグ作ったことないんですか?」
「うん、まぁ……」
多分、中学の家庭科の調理実習で作った記憶が……。
でもその時には学校が材料を用意してたし、何があったかなんて遠い昔のことなんか覚えてない。
「メモ、いいですか?」
「えっ?」
「材料、言うので。メモ取らなくて大丈夫ですか?」
「あ、あぁ。メモね」
俺はスマホのメモ帳を起動させる。
「いいですか?言いますよ?」
「あ、うん」
「挽肉、玉ねぎ、パン粉、卵、牛乳、塩コショウです。挽肉は合挽き肉を使って下さい。お子さんに野菜を食べて欲しいと思ったら、玉ねぎだけじゃなくてニンジンやピーマンをみじん切りにして入れたらいいと思いますよ。それからナツメグを入れたりしますが、これは入れなくてもいいです。お好きなように。以上ですが、何か質問はありますか?」
「いや……。ありがとう。助かったよ」
普段は俺が先生で今井は生徒だけど、今はその立場が逆転したみたいだ。
「それは良かったです。あ、あと、ソースですが、ケチャップだけでもいいのですが、ハンバーグを焼いたあとのフライパンにケチャップとトンカツソースか中濃ソースを適量入れて混ぜて、少しバターを加えるのがオススメです」
「なるほどね」
俺はそれもメモする。
「では、私はこれで」
「あ、あぁ、ありがとうな」
「いえ」
今井は再び俺に背を向け、野菜売り場と反対の方向に歩いて行った。



