「綾菜から全て聞いたのなら、綾菜に借金があるのはご存知で?」


「えぇ」


「その借金を僕が肩代わりする代わりに、結婚して欲しいと言いました。その条件を綾菜は飲んだんです」


「えぇ」


「その肩代わりした200万を全て払ってくれたら、別れてあげてもいいですよ」



男はそう言って、ニヤリと笑った。


綾菜や俺には絶対に払えないとでも思っているのだろう。


俺はカバンの中から銀行の封筒を取り出した。


それをテーブルに置く。



「この封筒に200万入ってます」


「えっ?」



さっきまで余裕の笑みを浮かべてた男の顔色が変わった。



「あなた、さっき言いましたよね?金を払ったら別れるって。どうぞ受け取って下さい」



男が封筒を見る。


なかなか封筒を取ろうとしない。



「どうしたんですか?早く受け取って下さい」



唇をギュッと嚙みしめる男。



「…………いりませんよ」


「はい?」


「こんな金、いりませんよ」



じゃあ、この男は綾菜と別れないと言うのか?


金を全て払ったら別れるって言ったのに……。


何で……。



「金なんて頂かなくても、こんな女、こっちから別れてやりますよ」


「そうですか……」


「借金払ってやる結婚してやるって言ったらホイホイついて来て。優しくしてやったら簡単に股開くような女、こっちから願い下げだよ」



男が吐き捨てるようにそう言った。


綾菜は俯いたまま静かに泣いていた。


こんな男でも本気で好きだったんだろう。


もし、ここが公の場じゃなかったら殴りかかってたところだ。


俺はテーブルの下で手をギュッと握り、殴りたいのをジッと我慢していた。