「先週、たまたま綾菜に会って、彼女から全て聞きました。て言うか、彼女は何も話そうとしなかったので、僕が全て聞き出しました」
「はっ?」
「彼女は、あなたと結婚すること、子供を手放したことを後悔しています」
男が綾菜を見る。
綾菜は俯いたまま顔を上げようとしない。
「綾菜?本当か?」
男はそう綾菜に問いかけるけど、綾菜は泣きながら“ゴメンなさい”を繰り返すばかりだった。
「綾菜!」
男が少し声を荒げると、綾菜の肩がビクッと揺れた。
周りにいた客がこちらをチラチラ見ていた。
「止めて下さい。彼女、怖がってるじゃないですか。あなたは人前でも彼女に暴力を振るうんですか?」
「はい?暴力?」
「あなた、彼女に暴力を振るってるでしょ?」
男の顔色が変わる。
「何を証拠に……。名誉起訴で訴えますよ」
「証拠は彼女の腕についたアザです。訴えたかったら、どうぞ訴えて下さい」
男は黙ったままだ。
「彼女と、綾菜と別れてあげて下さい」
何も言わなくなった男に、俺はそう言って頭を下げた。
何か考えるように窓の外を見ている男。
そして、少し笑みを浮かべた男が俺の方を見た。



