「彼に蒼太を本当の父親のとこに預けるように言われた時に、蒼太に聞いてみたの」
「何て?」
「パパに会いたい?って。そうしたら、会いたいって言って……」
「うん」
「蒼太にパパと一緒に暮らしたい?って聞いたら、暮らしたいって言ったの……」
「うん」
「蒼太に、ママは遠くに行くことになって蒼太と一緒に暮らせなくなったって話たのね……」
「うん」
「蒼太は明日からパパと一緒に暮らすんだよ。でも必ず迎えに行くから、それまでパパと一緒に良い子で待っててくれる?って聞いたら、うんって……」
「そっか……」
だから蒼太は俺を見て躊躇することなくパパって呼んだんだ。
「次の日に、蒼太を晴翔のマンションに連れて行って、ここにパパがいるからドアを叩いてごらん。ママはパパに会えないから、あっちにいるねって言って、蒼太に玄関のドアを叩かせたの。その間に私はその場から離れて……」
綾菜の目に涙が溜まっていく。
借金を肩代わりしてくれた負い目から好きでもない男と一緒にいる代わりに愛しい我が子を手放すことになって、綾菜は蒼太を俺の部屋の前に連れて来た時には、どんな気持ちだったんだろう……。
「話してくれて、ありがとうな」
俺はそう言って綾菜に笑顔を見せた。
綾菜は泣きながら首を左右に振る。
結局、綾菜は注文したアイスコーヒーを一口も飲むことはなかった。
氷が全て解けたアイスコーヒー。
「出ようか?」
「うん」
俺は伝票を持って、椅子から立ち上がるとレジに行った。
綾菜が半分払うと言ったけど、断り、アイスコーヒー代を支払った。