「あのさ……」 その時、耳元でゴトッと音がした。 …………えっ? 「綾菜?」 『ゴメン……』 綾菜はそう言うと、慌てたように電話を切った。 確かに聞こえた。 “綾菜”と呼ぶ男の声が。 どういうことだよ。 綾菜に男がいるってことなのか? いや、別に俺は綾菜の旦那でも彼氏でもない。 だから綾菜に男がいようが関係ない。 だけど蒼太は……。 もしかして男がいるから蒼太が邪魔で……。 考えたくない。 そんなこと。 俺は短くなったタバコを投げつけるように灰皿に捨て、車に戻った。