俺はキッチンに立って、コーヒーを飲んでいた。
リビングでは子供が遊び、ダイニングテーブルには生徒である今井がいて。
蒼太のオモチャがリビングにあって、テレビは常に子供番組が流れている。
ほんの数ヶ月前には考えられなかった光景。
「パパ!」
リビングにいた蒼太が走ってきて、俺に抱きついてきた。
「ん?」
「お腹すいた!」
「あー……そうだなぁ……」
時計を見ると、18時を過ぎていた。
「先生?」
「ん?」
今井の方を向く。
今井は椅子から立ち上がってこちらを向いていた。
「私たちは、そろそろ失礼します」
そう言って頭を下げたあと、リビングにいた妹と弟を呼んだ。
「なぁ、もし良かったら晩飯食べて行かないか?」
「えっ?」
「冷蔵庫の中、あまり食材がないから、たいしたものは作れないけど……」
「でも……」
その時、蒼太が今井の側に走って行く。
驚いた顔をする今井。
「おねーちゃん、一緒に食べよ?」
蒼太はそう言って、今井に笑顔を見せた。



