「すげー家だな」
今井の家の前に車を停めた俺の口から思わず出た言葉。
豪邸とまではいかないけど、レンガ造りの立派な一軒家。
庭も広いし、車庫も車が3台余裕で入る広さ。
周りの家に比べても目立っている。
「そうですか?普通ですけど」
いやいや、普通じゃねぇだろ。
俺の実家のある田舎なら、このくらいの広さの家は当たり前だけど、街中でこれは金持ちの家だよ。
今井って、もしかしてお嬢様?
「先生、ありがとうございました」
「いや、お礼を言わなきゃいけないのは、俺の方だよ。ありがとうな。本当、助かった」
「いえ……。先生、蒼太くんを叱らないであげて下さいね」
「あぁ、わかってるよ」
そう言って、何の気なしに今井に手を伸ばし頭を撫でようとした時、咄嗟に交わされた。
「じゃあ、おやすみなさい」
何事もなかったかのようにそう言う今井は、シートベルトを外して助手席のドアを開けた。
「あ、う、うん……。おやすみ」
恥ずかしい……。
そんな思いがジワジワ込み上げてくる。
今井は車から降りると、いつもの無表情のまま立っていた。
俺は今井に手を振り、車をゆっくり発信させた。