「今井の家庭は複雑でね。母親がいないんですよ」
「はぁ」
今井もそんなこと言ってたな。
調査表の家族欄にも母親の名前がない。
「父親は海外で仕事していて、小さな妹と弟の面倒を1人で見てるらしいですよ。だからたまに保育園から電話あって早退する事もあるし」
「牧野先生、お詳しいんですね」
「二者面談や三者面談の時に、いつも保護者が来ないから聞いてみたら教えてくれました」
「そうなんですか」
「えぇ。今井の上にも2人、お兄さんとお姉さんだったかな?いるみたいなんですが、お兄さんとお姉さんは大学生で家を出てるみたいで、家にはいつも今井と幼い妹と弟だけみたいです」
あれ?
確か、今井は大家族だと言ってたような……。
まぁ、お兄さんとお姉さんを入れると大家族には間違いないけど。
って、そんな話をしてるうちに時間はどんどん過ぎて行って、延長保育の時間ギリギリになっていた。
やべっ。
あとは持ち帰ってするか。
俺はパソコンの電源を落として、カバンに必要な書類を詰めた。
「帰られるんですか?」
「えぇ、失礼します」
「お疲れ様でした」
俺はカバンを持ち、職員室をあとにした。