「蒼太くん!おねーちゃんと一緒にお家に入ろう?」
夏美は“おねーちゃん”の部分を強調してそう言うと、蒼太の手を繋いで家の中に入って行った。
「なぁ、晴翔?」
「ん?」
兄貴は夏美と蒼太が家の中に入ったのを見ると、俺の方に目をやる。
「お前、綾菜ちゃんが本当に蒼太を捨てたと思ってる?」
「そうは思いたくねぇけど……わかんねぇんだよな……」
俺はそう言ってタバコを咥えて火をつけた。
あの母子手帳と手紙を見ると、綾菜が蒼太を捨てたとは思えない。
「保育園にはさ、遠くに引越すことになって、蒼太を育てられないから父親である俺に預けたって言ったらしいけど……でも俺には蒼太が邪魔のようなことを言ってたし……」
「うん」
「でも綾菜は嘘をつくようなヤツじゃないけど、どっちが本音なのか俺にもわかんねぇんだよ」
俺はタバコを咥えたまま頭を抱えて髪の毛をクシャクシャっとした。
「何か他に理由があるのかもしれないなぁ……」
兄貴はそう言って、俺のタバコの箱を取った。
他に理由ねぇ……。
それがわかれば苦労しねぇよ。