しばらくして、定食屋のうどんがやってきた。


「お待たせしました。」

お盆に乗ったうどん。
濃い橙色の大根の漬物。
店員さんが机の上にコトンと置いた。
湯気には上品な味が付いていて呼吸をするだけで、温かさを感じた。

「アキ、早いな。」

父が厨房の方を見ながら言った。

「食ったら、行けよ。」

「ずるい~。僕のハンバーグは~?」

もうすぐだといいながら父は実の頭をなでなだめた。

「じゃあ、食べるわ。」

ボクは、お盆を手前引き、うどんに箸を流した。
ずるずると音を立てながら、うどんが口の中に入る。


「熱い。」


美味いは美味い。
だが、正直、味なんてどうでもよかった。
腹に入ればそれでいい。


「おい、そんなに焦らなくても大丈夫だぞ。」

父がそう言うか言わないかの間に
うどんはなくなった。

割烹着姿の店員さんがやってきた。

「僕のハンバーグ!」

実のハンバーグをもって。

「じゃあ、先に行くわ。」

そう言うとボクもすばやく店を出た。

「アキ、気をつけろよ。」

父がそう言われるか言われないかのうちにボクは店を出た。