隣の部屋ではごそごそと音が聞こえる。
夜、ボクは目が覚めた。
  
「…なんだか、甘い匂いがする。」
 
ちこの匂い、ちこの家とおんなじ匂い。体にかけられていたタオルケットから出ようとしたとき腕が何かに引っ掛かっていた。
 
「…ちこ?」
 
彼女はボクの隣で眠っていた。顔はこっちを向いていて手が畳の方へはみ出している。引っかかったのは彼女の手で、またボクの服をつかんでいた。
 
「ちこ、汗かいてるよ。」
 
「…ん…。」
 
彼女の寝言?唇がかすかに動く。何かを言ってりみたいだったけどわからなかった。

寝ているのか。 
 
彼女の手をほどき彼女のタオルケットをかけた。
彼女が眠っているのを確認すると長い時間ぼんやりと彼女の寝顔を見ていた。
 
「ちこ。」
 
人が眠る姿を見てないが楽しいわけじゃない。感動もないし、動きがあるわけじゃない。
なのにその姿を見ているとなぜか涙がポロリとこぼれた。
 
「ちこ。ボクさ、頑張るよ。もう泣かないから。」
 
「…ん…。」
 
それはただのボクの誓い。
 
ボクはそのまま、また眠ってしまった。
もしかしたらこれはボクがみていた夢だったのかもしれない。
 
でも、すごく、甘く長い時間だった。