「具合が悪いのか」

「ううん、そうじゃない」
「そうか」


怒られると思ったのに親父はそれ以上なにも言わない。

「お父さん、殺人事件があったのを知ってる?」

「なんだ、あらたまって」
「おねがい、ちゃんとこたえて」

「ああ、そうらしいな」

「きのうの人なの」
「なにが、」

「ゆうべ、話したでしょ。病院で会った男の人のこと」


親父の顔が強張ったような気がした。


「だから、その人が殺されたの」


親父は言葉を失い、遠くを見つめる目をした。