「椿ちゃん…もうアート室行こっか。」



僕は話をそらそうと思い、彼女の手を

引いて美術部のアート室へと歩いていく。



「嬉龍くん、本当いい人だよね…。
私も嬉龍くんみたいになれたらなぁ…。」



そう後ろでボソッと呟く椿ちゃんは

僕の事をどう思っているんだろうか?



「椿ちゃん…君は十分素敵な人だよ…。」



僕は後ろを振り返らず彼女に話しかけた。

すると椿ちゃんは



「《素敵な人》ね…。私もいっその事、
ちゃんとした人間として生まれたかったわ。」



と少し寂しげな声を発した。


僕には意味がよく分からなかった。


でも彼女の心はきっとそんな辛い事で

埋まってしまっているのかもしれない。



「椿ちゃん…何か辛い事があるなら何でも言って…?僕、一応椿ちゃんの仮の彼氏だし…。」



僕は思わず振り返り椿ちゃんを抱き締めた。



「嬉龍くん…貴方は何でそんなに優しいの…?
わからない…。嬉龍くん…私、わからないよ…」


「優しくなんかないよ…僕は。」



僕はただ強がりたいだけだ。


彼女には弱いところはみせない。



本当は何にも出来ない弱い奴だけど椿ちゃんが

好きだから弱虫な僕は隠している。