ゆっくりと、家へと足を踏み入れた。 懐かしい家の匂い。 いつも玄関に置いてある綺麗な花。 お父さんの革靴と、あたしのローファーと、お母さんのクツ。 ……なんにも、変わってない。 このまま、いつも通りに部屋に向かってしまえば。 前と同じように過ごせたなら。 この頭の中にある塊をなかったことに出来るかな……。 「麗紀、おかえり」 いつもの、お母さんの優しい声が聞こえた。 視線を上げれば、いつもの優しい笑顔で。 「……ただいま」 あたしも、笑顔で返した。