その少しの力が、あたしの涙腺を刺激する。
目頭が熱くなる。
あたしは唇をギュッと噛んだ。
「…栗田……」
その低い声と同時に、あたしの腕を掴んでいた力が弱まった。
あたしは驚いて振り返る。
「……ッ…」
思わず、息を飲んだ。
彼が、あまりにも悲しい顔をしていたから。
どうして、そんな泣きそうな顔してるのよ…。
あたしはまた、唇を強く噛む。
「…ッ…なんで、なんでお前は、泣くのを我慢してんだよ!!なんで自分の気持ちを表に出さない!?……前のお前は、笑ってたのに…。…最近のお前はさ……なんか諦めてんだよ。笑ってても、笑ってねぇんだよ」
苦しそうに、あたしから目を逸らして緒川くんは言う。
…前のあたしって、病気のことを知る前のあたし?
きっとそうだよね。
だってあの頃は、本当に楽しかったんだ。
今はもう、あまり思い出せないけど。
この短期間に、色んなことがありすぎて。



