思わずあたしは立ち上がり、その反動であたしが座っていたイスが倒れた。
そして、あたしの膝の上に乗っていた優香ちゃんのぬいぐるみが、ぼとっと地面に落ちた。
「………栗田…?」
彼は大きく目を見開いた。
もう関わらない。
そう決めた相手が今、あたしの目の前にいる。
あたしの脳は、働こうとしない。
それでもただ、“まずい”とだけは、判断していた。
「…お姉ちゃん?」
後ろから、不安げな声が聞こえた。
その声は確かにあたしの耳には届いているけど、あたしは今、返事が出来なかった。
ただ、あたしの中は“まずい”、“逃げろ”、そんなような言葉がグルグル回っていた。
あたしは落ちたぬいぐるみを震えている手で拾い、ベッドの上に置いた。
「…栗田……。お前、なんで…」
彼が一歩、踏み出した瞬間、あたしは病室を飛び出した。



