主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※

丙の両親は本当に優しく接してくれる。

家は百姓で、米や野菜を作っていて大きな畑を幾つも持っている裕福な家庭だ。

だが丙はまっすぐ育ち、両親を助けるために共に畑を耕したり出荷の手続きをしたり忙しい中、それでも毎日寺子屋へ通って勉強を怠らなかった。

…つまり申し分ない男ということ。


「丙が迷惑かけたりしてないかしら。例えばしつこく言い寄ったり…」


「ちょ、ちょっと母さん!しつこくは…多分してないと思うけど…」


「え?だったらもう“お嫁さんに来てほしい”って言ったの?全く困った子ねえ」


「でも嬉しかったです。もうちょっと待ってもらえれば…お返事できると思います。あの…時々畑のお手伝いをしに来てもいいですか?」


きちんと正座をして礼儀正しい若葉が湯呑を置いて丙の両親にお願いをすると、3人は顔を見合わせた後口々にその願いを聞き入れて喜んだ。

時々こうして遊びに来ることはあったがいつも丙は無理矢理連れて来ていたようなものなので、若葉が自発的にやって来てくれることが嬉しくて、丙は思わず若葉の両手を握った。


「よかったらいつでも来て。ま、毎日でもいいし」


「うん、ぎんちゃんにも言っておかないと心配するし、お姉ちゃんたちにも言っておかないと。邪魔にならないように頑張るね」


にこっと笑った若葉を丙一家は早く家族に迎えたがっていた。

生い立ちが哀れだし、主さまは幽玄町を守ってくれているが…妖だ。

妖たちに囲まれて暮らすのは不憫だし、間違って食われでもしたら――


そして若葉は夜遅くまで丙の家に滞在して、そろそろ戻らなければと思った若葉が草履を履いて外に出ると、戸の前にはぴったり猫又が座っていた。


「もう帰るにゃ。息吹が心配するにゃ。僕の背中に乗るにゃ」


「でもひのえちゃんが送ってくれるって…」


「いいから僕に乗るにゃ」


有無を言わさず金色の瞳を光らせて凄む猫又の背に跨ると、丙は若葉の手を握って揺らし、別れを惜しんだ。

だが若葉が別れの挨拶もしないまま猫又が駆け出してしまって慌てて身体にしがみつくと、文句を言おうにも振動で喋れなくなった。


「若葉は朔と夫婦になるんじゃなかなったにゃ?」


猫又が呟いたが、しがみつくので精いっぱいの若葉はその問いに答えられず、ぎゅっと瞳を閉じていた。