朔が丙の存在にぴりっとしたことに気付いた息吹は、同じようにある意味修羅場になっていた玄関を見ている主さまの着物の袖を引っ張った。
「主さま…どうしよう…」
「好きにさせろ。朔が若葉に興味がないのならば、それでいい。それに若葉が自身の決断で決めることならば、俺たちが口出ししていい問題じゃない」
銀のふわふわの尻尾がたわしのようになっているのを見て、銀の機嫌がものすごく悪いことにも気付いていたが、正直言って身から出た錆。
息吹が若葉の年頃になった時にはすでに女として意識していたし、何が何でも傍から離さずに絶対妻にしようと決めていた主さまにとっては、今までの所業は自業自得と言える。
実際若葉はほぼ無表情で銀を見上げているし、銀に何ら恋心のような感情を抱いていないのかもしれない。
だが銀の態度は――
「お姉ちゃん、ひのえちゃんのお家に行って来ます。帰りは…」
「帰りは俺がちゃんと送りますから心配しないで下さい」
折り目正しくまた頭を下げた丙は礼儀正しく申し分ない。
そしてまた自然に若葉と手を繋いだので銀が口を開こうとした時、息吹が足元にじゃれついていた猫又に小さな声で呼びかけた。
「猫ちゃん、若葉について行ってくれる?」
「見張りだにゃ?わかったにゃ!今日は百鬼夜行お休みするにゃ」
息吹が背に乗れるほど大きかったはずの猫又が普通の猫の大きさになり、肩を並べて屋敷を後にした2人に見つからないように気配を殺しながらついて行く。
銀は2人の姿が消えるまでその背中を見送り、隣に立った主さまが銀の尻尾を思いきりつねった。
だが痛みを感じていないのかまだどこか呆然としていた銀の横顔は険しく、消え入るような声でぽつりと呟いた。
「若葉が…俺の傍から居なくなるのか?」
「…あの男の嫁になるのならば、そうなる。だが幽玄町で暮らすんだから、いつでも会える」
「そういう問題じゃない。俺はまだ許してない」
「許さずとも、想い合っているのならば無理矢理にでも添い遂げる。…孫を抱く日が近付いたな」
嫌味を言った主さまを咎めるように息吹が主さまの背中を叩いたが、銀は未だ状況が理解できずに拳を強く握っていた。
若葉が嫁に――
常々口にしていたことだが、まさかその日がこんなに早く来るなんて――
今すぐ追いかけて丙を殺したいという衝動を押し殺すのに躍起になっている銀の肩を抱いた主さまは、屋敷の中へと引き返した。
「主さま…どうしよう…」
「好きにさせろ。朔が若葉に興味がないのならば、それでいい。それに若葉が自身の決断で決めることならば、俺たちが口出ししていい問題じゃない」
銀のふわふわの尻尾がたわしのようになっているのを見て、銀の機嫌がものすごく悪いことにも気付いていたが、正直言って身から出た錆。
息吹が若葉の年頃になった時にはすでに女として意識していたし、何が何でも傍から離さずに絶対妻にしようと決めていた主さまにとっては、今までの所業は自業自得と言える。
実際若葉はほぼ無表情で銀を見上げているし、銀に何ら恋心のような感情を抱いていないのかもしれない。
だが銀の態度は――
「お姉ちゃん、ひのえちゃんのお家に行って来ます。帰りは…」
「帰りは俺がちゃんと送りますから心配しないで下さい」
折り目正しくまた頭を下げた丙は礼儀正しく申し分ない。
そしてまた自然に若葉と手を繋いだので銀が口を開こうとした時、息吹が足元にじゃれついていた猫又に小さな声で呼びかけた。
「猫ちゃん、若葉について行ってくれる?」
「見張りだにゃ?わかったにゃ!今日は百鬼夜行お休みするにゃ」
息吹が背に乗れるほど大きかったはずの猫又が普通の猫の大きさになり、肩を並べて屋敷を後にした2人に見つからないように気配を殺しながらついて行く。
銀は2人の姿が消えるまでその背中を見送り、隣に立った主さまが銀の尻尾を思いきりつねった。
だが痛みを感じていないのかまだどこか呆然としていた銀の横顔は険しく、消え入るような声でぽつりと呟いた。
「若葉が…俺の傍から居なくなるのか?」
「…あの男の嫁になるのならば、そうなる。だが幽玄町で暮らすんだから、いつでも会える」
「そういう問題じゃない。俺はまだ許してない」
「許さずとも、想い合っているのならば無理矢理にでも添い遂げる。…孫を抱く日が近付いたな」
嫌味を言った主さまを咎めるように息吹が主さまの背中を叩いたが、銀は未だ状況が理解できずに拳を強く握っていた。
若葉が嫁に――
常々口にしていたことだが、まさかその日がこんなに早く来るなんて――
今すぐ追いかけて丙を殺したいという衝動を押し殺すのに躍起になっている銀の肩を抱いた主さまは、屋敷の中へと引き返した。

