若葉にじっと見上げられて見つめられた銀がぎこちなく手を離すと、若葉が言葉も発さず丘をゆっくり降りて行く。
そのほっそりとした後ろ姿に眩暈を感じた銀は、家の中に引き返して着物を脱いで新しいものを着ると、大きく息をついた。
「どうした…何を動揺している?若葉が…女らしくなったからか?」
自問して、内なる声が“是”と答えると、畳にどすんと腰を下ろした銀は、額を押さえて呻きながら寝転がった。
…そろそろ手放す時が近付いてきているのだろうか。
それとも…未だ女遊びをやめないことを無言で咎められているのだろうか。
自分には秘密で…やはり朔といい関係になっているのだろうか?
「…許さんぞ、あの餓鬼…」
想像だけで腸が煮えくり返りそうになり、若葉を追って主さまの屋敷へ行くと――縁側では若葉と朔が仲睦まじく肩を並べて座っていた。
若葉の手には蒲公英(たんぽぽ)が一輪握られており、恐らく朔が贈ったものであることが窺えた。
「朔ちゃんはいつ百鬼夜行を継ぐの?」
「まだお父様から教わってないことが沢山あるから、もうちょっと先。俺が百鬼夜行を継いだら、お父様たちと弟や妹はここを出て行くって言うんだ。俺はそれが嫌で…引き留めたい。若葉、何かいい案があれば俺に授けて」
――主さまは髪を伸ばしているが、朔は短いまま。
髪の毛1本1本にまで妖力が流れているために、力を誇示するためには伸ばしておいた方がいいのだが、若葉の“短い方がかっこいい”という一言で朔が髪を伸ばすのをやめたことを銀は知っている。
母屋の影に身を潜めたまま、銀がぎりっと歯ぎしりをすると、銀の匂いに敏感な若葉がふっと顔を上げた。
「ぎんちゃんが近くに居る。さっきなんかね、またぎんちゃんの身体や着物に女の人の匂いがついてたの。朔ちゃんどう思う?」
「…俺はそんなことしない。女なんてめんどくさいだけだ」
若き頃の主さまと全く同じことを言っては真一文字に結んだ口元を緩ませた朔が若葉の頭を撫でた。
「若葉は違うから。俺の幼馴染だし、めんどくさいって思ったことない」
「ありがとう朔ちゃん。ぎんちゃんは…私が寿命で死んでも女遊びはやめないと思う。性分なんだろうね、仕方ないのかな。でも…女の人の匂いがついたまま添い寝なんてされたくないの。そうされると朝絶対お風呂に入って身体を洗ってるの。ぎんちゃんは知らないと思うけど…すごく汚れた気分になるの」
…銀の胸がずきっと傷んだ。
得も言われぬ痛みが身体中を走り抜け、ずるずると腰を屈めて両手で顔を覆った。
そのほっそりとした後ろ姿に眩暈を感じた銀は、家の中に引き返して着物を脱いで新しいものを着ると、大きく息をついた。
「どうした…何を動揺している?若葉が…女らしくなったからか?」
自問して、内なる声が“是”と答えると、畳にどすんと腰を下ろした銀は、額を押さえて呻きながら寝転がった。
…そろそろ手放す時が近付いてきているのだろうか。
それとも…未だ女遊びをやめないことを無言で咎められているのだろうか。
自分には秘密で…やはり朔といい関係になっているのだろうか?
「…許さんぞ、あの餓鬼…」
想像だけで腸が煮えくり返りそうになり、若葉を追って主さまの屋敷へ行くと――縁側では若葉と朔が仲睦まじく肩を並べて座っていた。
若葉の手には蒲公英(たんぽぽ)が一輪握られており、恐らく朔が贈ったものであることが窺えた。
「朔ちゃんはいつ百鬼夜行を継ぐの?」
「まだお父様から教わってないことが沢山あるから、もうちょっと先。俺が百鬼夜行を継いだら、お父様たちと弟や妹はここを出て行くって言うんだ。俺はそれが嫌で…引き留めたい。若葉、何かいい案があれば俺に授けて」
――主さまは髪を伸ばしているが、朔は短いまま。
髪の毛1本1本にまで妖力が流れているために、力を誇示するためには伸ばしておいた方がいいのだが、若葉の“短い方がかっこいい”という一言で朔が髪を伸ばすのをやめたことを銀は知っている。
母屋の影に身を潜めたまま、銀がぎりっと歯ぎしりをすると、銀の匂いに敏感な若葉がふっと顔を上げた。
「ぎんちゃんが近くに居る。さっきなんかね、またぎんちゃんの身体や着物に女の人の匂いがついてたの。朔ちゃんどう思う?」
「…俺はそんなことしない。女なんてめんどくさいだけだ」
若き頃の主さまと全く同じことを言っては真一文字に結んだ口元を緩ませた朔が若葉の頭を撫でた。
「若葉は違うから。俺の幼馴染だし、めんどくさいって思ったことない」
「ありがとう朔ちゃん。ぎんちゃんは…私が寿命で死んでも女遊びはやめないと思う。性分なんだろうね、仕方ないのかな。でも…女の人の匂いがついたまま添い寝なんてされたくないの。そうされると朝絶対お風呂に入って身体を洗ってるの。ぎんちゃんは知らないと思うけど…すごく汚れた気分になるの」
…銀の胸がずきっと傷んだ。
得も言われぬ痛みが身体中を走り抜け、ずるずると腰を屈めて両手で顔を覆った。

