主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※

夕方になって朔が若葉を迎えに寺子屋へ出向いた時、銀と若葉は校庭を駆け回っていた。

…母からここは人が通う場所だから立ち入ってはならないと言われていた朔が少しだけむっとして銀を睨みつけていると、殺気を感じた銀が顔を上げて朔の存在に気付く。


「おお朔か。若葉を迎えに来たんだな。じゃあ俺は百鬼夜行に出なければ」


「ぎんちゃん遊んでくれてありがとう。みんなが尻尾に触れて嬉しかったって言ってたよ」


同級生たちと別れを告げて朔と銀の間に立って主さまの家に引き返している間、不機嫌な朔は一言も口を利かず、その理由に気付いていた銀は敢えてそれを無視して若葉を肩車した。

…間違っても朔と夫婦にさせるつもりはない。

主さまと夫婦になった息吹は紆余曲折あって結ばれたが、決定的に若葉と違うのは、いずれ寿命が尽きて死んでしまうこと。

今のうちはまだ恋だの愛だのわからないだろうから口出しはしないが、いずれ年頃になって恋に落ちてしまうようなことがあれば…いくら主さまの息子と言えども黙っているつもりはない。


「朔ちゃんどうして怒ってるの?今日も迎えに来てくれてありがとう」


「…別に怒ってない。あとお母様が泊まっていきなさいって言ってた」


「いいの?ぎんちゃんは?朔ちゃんは?」


嬉しがっている風の若葉をしょげさせるようなことだけは絶対にしたくない2人が頷くと、若葉は銀のふかふかの両耳をむにむに握りながら喜んだ。

冬になると若葉はほとんど毎日といっていいほど主さまの屋敷に泊まる。

あの小さな家は時折隙間風が吹くし、若葉がよく風邪を引くので、もうそんな季節が来たのかと感慨深くなった銀は、朔の頭をぐりぐり撫で回した。


「ぎん、やめろ!半殺しにするぞ!」


「ははっ、まだ童子のお前に何ができる?それより今年の冬も若葉を屋敷に泊めてやってくれ。…色目を使ったらひどい目に遭わせてやるからな」


銀の濃紺の瞳がぴかっと光り、背筋がぞくりと震えた朔は唇を尖らせながらも頷き、銀から距離を取った。

いくら主さまが後ろ盾に居るとはいえ、銀はもともと父と対立していた男。

いつ反旗を翻してもおかしくはないと言われていたので、数歩先を歩いて屋敷に戻った朔は、出迎えてくれた息吹に引っ付いて離れなくなった。


「朔ちゃんどうしたの?銀さん、若葉お帰りなさい。若葉、今日は少し寒いからお雑煮にしようね」


「うん、お手伝いする」


下ろしてもらった若葉は、銀の尻尾を1度きゅっと握って百鬼夜行に送り出した。