主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※

それからというものの…銀と若葉が共に過ごす時間はめっきり減ってしまった。

銀が百鬼夜行から帰って来る時は若葉は寝ていて、起きたと思ったらものすごい速さで朝餉を食べて飛び出して行く。

夜は銀が百鬼夜行に出なくてはならないが、その頃にはやっと寺子屋から帰ってきた若葉が“ちゃんと帰って来てね”と送り出してくれるのだが…


「…面白くない。面白くないぞ」


家でふて寝していた銀は、最近添い寝をしていない。

気が付けばなんだか少し若葉が大きくなっているような気がするし、今まで着ていた着物だって裾が短い気がする。

それに気付いた頃には、いつも一緒に過ごしている息吹たちの方がそれに敏感に気付き、新しい着物を譲ってくれる。

物をねだられたこともなければ町も一緒に歩く機会がすくない銀は、急に思い立って起き上がると、丘を降りて主さまの屋敷の前を通り過ぎ、幽玄町の外れにある寺子屋に向かった。


「ん、居たぞ。……楽しそうだな」


そう呟いたのも仕方がないほどに、若葉が目一杯校庭を走り回り、影踏みをして遊んでいた。

大人しい子だと思っていたし、走り回る姿をほとんど見たことが無かった銀は、門の影に隠れて姿が見えないようにすると、むっとした表情になる。


だが銀は隠れていたつもりだったのに、校庭の中心あたりで若葉が急に立ち止まると、確かにはっきりこちらを見た。


「…ぎんちゃん?」


「何故わかった?」


仕方なく銀がひょっこり顔を出すと、若葉は瞳を輝かせて銀に駆け寄り、むぎゅっと腰に抱き着いて見あげてきた。


「会いに来てくれたの?ぎんちゃんの匂いがしたからすぐにわかったよ」


「お前の嗅覚は獣並だな」


幽玄町に住んでいる人々は、平安町に住んでいる人々よりも妖に対しての耐性が強い。

だが銀のように位の高い妖と接する機会がほとんどないので、銀と若葉が会話をしている様子を遠巻きに見ていたのだが、若葉は銀の手を引っ張って中へ引きいれようとした。


「ぎんちゃんも一緒に遊ぼ。先生にお願いしてみるから。みんなもぎんちゃんと遊びたいでしょ?」


――ふかふかの尻尾と耳…それに白銀に輝く髪に濃紺の切れ長の瞳。

美貌が際立つ銀は近寄りがたい雰囲気をしていたが、若葉に向ける笑顔は優しく、子供たちは怖ず怖ずと銀に近寄った。


「じゃあかくれんぼでもするか。俺が鬼になってやるぞ」


「ぎんちゃん鼻がいいから駄目。みんなでかくれんぼしよ!」


子供たちが歓声を上げる。

仕方なくといった態で肩を竦めた銀は、寺子屋に脚を踏み入れて子供たちの遊びに加わった。