主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※

主さまの屋敷に戻ると、ちょうど百鬼夜行に出かけるための準備が始まっていた。

寺子屋でどんな遊びをしてどんな勉強をしたのか道中朔に語っていた若葉の顔は綻び、いつもと違う豊かな表情を浮かべている若葉を見つけた銀が、百鬼をかき分けて若葉の前に立つ。


「どうだ、面白かったか?人とは仲良くできたか?」


「うん、楽しかった。…ぎんちゃん…それ…どうしたの?」


微笑みながら若葉を見下ろしている銀の手には栗ごはんのおにぎりが握られており、若葉がじっと見つめていると、銀は丁寧におにぎりを懐に入れた。


「腹が減ったら食う。お前が俺のために作ってくれた栗ごはんだからな」


――妖の銀が腹を空かせることなど滅多にない。

気遣ってくれているのだと思った若葉はどう喜びを表現していいのかわからず、無言のまま銀の腰に抱き着いた。


「銀さん、今日はうちで若葉を預かってもいい?お手伝いしてほしいこともあるし、それに…」


「きゃああー、若葉お姉ちゃんー、遊んでー」


まだ朔よりも小さな息吹の子たちが若葉にまとわりつき、それぞれが違うお菓子を手にして若葉の胸や手に押し付ける。

本当の兄妹のように育ったため、若葉が主さまの屋敷に泊まったりすることに誰も疑問を感じない。

むしろ百鬼の間では、朔と若葉がいずれ夫婦になるのではないかともっぱら噂になっていた。


「お菓子ありがとう。ぎんちゃん…泊まっていってもいい?」


「ああ、そうしろ。百鬼夜行が終わったら迎えに行く。ちゃんと帰って来る」


先手を打ってにかっと笑った銀を見上げた若葉がにこっと笑ってふかふかの尻尾を握り、部屋から出て来た主さまに駆け寄って同じように腰に抱き着いた後、口を両手で囲んでなるたけ大きな声で叫んだ。


「ぎんちゃん、ちゃんと帰って来てね」


「くどいぞ。ちゃんと帰って来るとも」


「若葉、行こう。これ珍しいお菓子なんだって。みんなで半分こしたから全部食べていい」


若葉が朔に連れ去られてしまい、銀がちょっとむっとしていると、主さまが銀の後頭部を軽く叩いた。

最近やけに朔が若葉に馴れ馴れしく接していることが許せないと感じている自身の気持ちに銀は気付いていながらも、それは親心からだとはなから決めつけている。


「さあ十六夜、行くぞ。悪行をする奴らなど俺が蹴散らしてくれる」


八つ当たりをする気満々でいた。