主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※

「若葉、これやるよ」


まだ小さな子供たちの遊び相手になってやっていた若葉が少し疲れて縁側で休憩していると、朔が籠にいっぱい詰められた栗を差し出した。

意味がわからずに若葉がきょとんとしていると、朔は若葉の隣に座り、遠くからにやにやしながら見守っている両親たちに気付いていながらも、若葉の膝に籠を乗せた。


「栗?朔ちゃん栗が好きなの?」


「俺じゃなくて、若葉が好きなんじゃないかと思ったから分けてやる。おじい様の裏庭で採れたんだ。栗ごはんにしたら美味しいってお母様が言ってた」


「わあ、ありがとう。ぎんちゃん栗ごはん食べるかな」


にわかに瞳を輝かせて喜んでいる若葉の表情に朔も嬉しくなってにこにこしていると、急に若葉がすくっと立ち上がり、草履を履いた。


「どこ行くんだ?」


「栗ごはんを仕込んでくるの。ぎんちゃんが百鬼夜行に行く前に一緒に食べるの。朔ちゃんまた来るからまた遊んでね」


「うん」


籠を胸に抱きしめて駆け出した若葉は、銀が喜んでくれる想像をしてついにまにましてしまいながら小高い丘の上にある小さな家に着き、戸を開け放った。

そして、凍り付いた。


「なんだ、若葉か。朔たちと遊んでいたんじゃなかったのか?」


「……ぎんちゃん…」


留守にしていたと思って居た銀が家に居る――だがひとりではなく、銀の隣には緋色の着物を着て胸のあたりをはだけさせた妖艶な美女が侍っていた。

銀はそんな光景を見られても全く動じなかったが…若葉はのろのろとした動作で台所に籠を置き、銀に言葉をかけないまま家から出て行こうとして呼び止められた。


「若葉?どうしたんだ、こっちを見ろ」


言われた通り、若葉がゆっくりと振り返る。

だが若葉の表情を見た銀は、身体に絡み付く美女の手を振り払いながら腰を浮かせた。


「…どうした?お前…表情が無いぞ?」


「…栗をもらったから栗ごはんにしようと思ったけど…また今度にするから。じゃあねぎんちゃん、さよなら」


――若葉の“さよなら”が一生の別れの言葉に聴こえた銀がまた若葉の名を呼んで引き留めようとしたが、小さな身体は戸をするりと抜け出て消えて行ってしまった。

まだまだこれから…これから成長が楽しみで傍で見守っていきたいと思っていた銀の尻尾が垂れ、引き留めようとする美女を振り切って若葉を追いかける。


家に入ってくるまでにこにこしていたのに…どうして無表情になったのだろうか?

何か悪いことでもしたのだろうか?


何もかもがわからないまま、とにかく若葉を追いかけて丘を駆け下りた。