主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※

若葉といい雰囲気になりそうな長男の頭を小突き回して離れさせた銀は、すっかり顔色が良くなった息吹と主さまに笑いかけて腰を上げた。


「じゃあ俺たちは帰る。そろそろ元の暮らしに戻らせてもらう」


「ぎんちゃん…でもまだ赤ちゃんが小さいし…」


「大丈夫だよ若葉。私ももう少ししたら幽玄町のお屋敷に戻るからね。その時はまたお手伝いしてね」


「うん。ぎんちゃんおてて繋いで。じゃあまたあっちでお話しようね」


「その狐が居ないとこでならいい」


ぷいっと顔を背けてふくれっ面をしている長男が主さまばりに突っ張った態度で返事をすると、銀は若葉と手を繋いでこれも言い返さずに完全に無視して門を潜り、商店街の方を指した。

銀と若葉は会話が少ない。

そのことを気にしたこともないので、銀と一緒に珍しいものを見て回り、銀が妖であることは耳と尻尾のせいですぐにわかるので怖がられると思っていたが――何故か好意的に受け入れられていて、若葉は銀を見上げてその意味を聴いた。


「ぎんちゃん妖なのにみんな怖がってないね」


「ああ、俺が晴明の血縁の者で、十六夜の知己で、百鬼だということを知っているからな。平安町の女たちも誘えばすぐに遊んでくれるし、度々訪れているんだ」


「ふうん。じゃあ私も時々平安町に遊びに行ってもいい?」


「それは駄目だ。お前は幽玄町で生きて、幽玄町に住む者と夫婦になって、俺に孫を見せてくれ。それが俺の楽しみでもあるんだからな。…言っておくが十六夜のところの長男は駄目だぞ。あれは妖だからな」


「でも雪ちゃんと同じ半妖でしょ?半分は人なんだから別に…」


「息吹は人であり、人ではない。とにかくあいつは駄目だ。確実に色男になりそうだし、お前を絶対泣かせるに決まっている。この話はやめよう、何か買ってやろうか」


物欲の全くない若葉はきょろりと辺りを見回して目につきそうなものを探したが、すぐにまた銀に視線を戻して首を振る。


「ない。ぎんちゃんお家に帰ってお団子食べよ。美味しいお団子作ってあげる」


「ああ、じゃあ帰るか。今まで息吹と赤子の世話をしてご苦労だったな、今日は一緒に風呂に入って、一緒に飯を食って、一緒に寝てやるぞ」


「うんっ。ぎんちゃん早く帰ろ」


いつも大人びている若葉が年相応にくしゃっと笑ったので、また安心した銀は若葉を抱っこして少し早足に幽玄橋を渡り、帰路についた。