主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※

「ぎんちゃんっ」


何故か息せき切って駆け込んできた若葉を見上げた銀の顔はきょとんとしていて、膝をぽんぽん叩くと若葉が銀の膝に上がり込みながら肩を揺さぶった。



「若葉?どうした?」


「ぎんちゃん、私お嫁さんに行くっ」


「…は?お前なに言ってるんだ童子のくせに。寝ぼけてるのか?」


「もうちょっと大きくなったら雪ちゃんのお嫁さんになるから。雪ちゃんのお嫁さんになって赤ちゃんが生まれたら、ぎんちゃんに抱っこさせてあげる」



若葉としては名案だったのだが…銀が賛成してくれるかと思いきや――銀の両耳が思い切り後ろに倒れて、思い切り眉根を寄せて険しい表情になった。

そんな顔をされたことがなかった若葉が驚いてそろりと膝から下りると、銀の機嫌が急降下したのを察知した晴明が腕を伸ばして若葉を浚い、主さまとの間に若葉を挟んで銀の攻撃を待ち受ける。


「ぎんちゃん?」


「雪男と夫婦になるだと?お前…そんなに嬉しそうな顔をして…そんなに俺から離れたいのか?雪男を好いていたのか?」


「え?う、うん、雪ちゃんかっこいいし優しいし…ぎんちゃんが赤ちゃん欲しがってたみたいだし…ぎんちゃんどうして怒ってるの?私…変なこと言った…?」


「……」


「まあ雪男のことはともかく、銀から離れたいわけではないのだろう?銀のためによかれと思って言っただけだな?」


「…うん…」


銀が無口になり、しょげてしまった若葉が俯くと、主さまが無言のまま若葉を膝に乗せて小さな頬を引っ張って遊んだ。


「銀から離れたいのならば俺か晴明の家に来るといい。そもそも息吹は常々お前を引き取りたいと言っていたからな」


「!十六夜…笑えない冗談を言うな。若葉は俺が育てたんだぞ。…そりゃ息吹の手を借りたことも多いが…ふん、もういい。とにかく若葉は雪男の嫁になどやらんし、家から出て行くことも許さない」


主さまがふっと笑った。

息吹が小さかった頃に自分が執着していたように、銀が若葉に執着している姿がかつての自分と重なり、庭に降りていった銀を追いかけて裸足で駆けて行った若葉の後姿を見送りつつ、晴明の盃に酒を注ぐ。


「…俺もあんなだったか?」


「ああ、うりふたつだな。そなたが息吹を追いかけ、息吹がそなたを追いかけていた。あの2人、もしや……ふふふふ」


晴明が笑い声を漏らし、ぞっとした主さまが距離を取って座り直すと、ため息を漏らして銀の背中に負ぶさった若葉の後ろ姿を見つめた。