主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※

陣痛が始まってから数時間しかかからない安産だった。

主さまと息吹が生まれてきた女の子の赤子を産湯に着けてやり、肌着を着せて代わる代わる腕に抱く2人の姿が微笑ましく、また若葉の理想となる。

主さまはいつもむっつりしているが、息吹と話したり花に水を遣ったりするときは本当に優しい表情になるが、本人は気付いていないらしい。


「可愛い…。お姉ちゃん似だね」


「そう?唇とか鼻の感じは主さま似だと思うんだけど、どっちにしろ可愛い…。はい銀さん、抱っこしてあげてね」


「ああ。…おお、ふわふわしている。力を込めると壊れてしまいそうだな」


「…返せ」


焦った主さまが腕を伸ばして取り返そうとしたが、銀はその攻撃をひょいっと避けると、赤子の顔を覗き込んで頬を優しく突き、瞳を細めて笑った。


「若葉が赤子だった頃を思い出す。こうして何度も腕に抱いているうちに情が沸いて、俺が育てると言い出したんだ。大変だったが、独りではない生活もなかなか面白い」


「ほんと?ぎんちゃん、もっと赤ちゃん欲しい?」


「ん?なんだ、どういう意味だ?」


息吹が慌てて若葉を膝に乗せ、耳元で“しーっ”と言うと若葉が口を噤み、銀と主さまは首を傾げたが、息吹が話を逸らすために何か話題を、と目を泳がせていると――


「ん、なんだこいつ…さすが息吹の子だな。さっきから俺の尻尾を握ったままだぞ」


銀がぴょこぴょこ動かしていた真っ白な尻尾を握って離さない赤子に皆の笑みが漏れ、若葉が珍しく笑い声を上げて、銀を嬉しくさせる。


「あははっ、ぎんちゃんの尻尾気持ちいいの知ってるんだね。お姉ちゃんも私もぎんちゃんの尻尾とお耳大好き」


「そうかそうか、お前たちは揃って助平だな。…おい十六夜、俺を睨むな」


「そうだぞ十六夜。何なら術をかけてそなたに尻尾と耳を生やしてやろうか?」


「えっ!?ち、父様、私からもお願いしますっ。主さまに尻尾と耳…」


息吹がはぁはぁしてしまい、顔が真っ赤になった主さまが荒々しく腰を上げて庭に飛び出て行くと、皆が爆笑して笑いに包まれる。

本当に可愛らしい赤子に夢中になった若葉は銀から赤子を受け取って丁寧に抱っこしてやりつつ、少し笑った赤子に見入った。


「赤ちゃんって可愛い。私も可愛かった?」


「ああ、可愛かったとも。お前は絶対可愛くなると思っていたが、やはり俺の目に狂いはなかったな」


銀に優しく笑いかけられた若葉は有頂天になり、また赤子に目を落として紅葉のような小さな手を握った。