その夜銀は主さまをからかいもせずに黙々と百鬼夜行を行っていた。
また主さまもいつもよりさらに寡黙になり、百鬼がびくびくしつつもそうなっている理由がもちろん息吹であることはわかっているので何も言わないが、ひそひそ声は飛び交っていた。
「次は男か女か…。しかし毎年のように子が生まれるな。主さまは淡白に見えて意外と…」
「主さまが引退して息子に代を譲るのも遠い日じゃないな。しかしあの長男は…やんちゃで手がかかる。あれは息吹似だな」
…好き勝手言われているのは主さまもわかってはいたが、実際問題にやにや笑いが止まらない。
最近我が子の話題でもちきりになっているのも誇らしく、隣に銀が移動してくると、にやにや笑っているのを見られて慌てて表情を引き締めた。
「十六夜…今気持ち悪い顔をしていたぞ」
「…うるさい。それより俺はこれが終わったらすぐ晴明の屋敷へ行く。お前はどうする」
「俺も行く。若葉に会いに行ってやらないとぐずって泣いてしまうかもしれないからな」
「若葉が泣いている姿など見たことがないぞ。意外とお前が居なくとも平気なんじゃないか」
そう言われて無性にそわそわしてしまった銀は、結局百鬼夜行を終えるまで珍しくも落ち着きがないままで、終了の号令がかかると、主さまの腕を引いて風の如く走り出す。
また主さまも息吹の出産が今日か明日であることを知っているので、2人でわたわたしながら晴明の屋敷に着くと、徒競走をするような態で息吹の部屋へ向かい、すやすや眠っている2人を見てほっと息をついた。
「よかった、まだ生まれていなかったな」
「若葉、ちゃんと会いに来たぞ」
銀が呼びかけた途端、すやすや眠っていたはずの若葉の目がばちっと開き、がばっと飛び起きると、息吹が起きないようにして銀に駆け寄って無言で細い腰に抱き着いた。
「ぎんちゃん会いに来てくれた」
「当然だとも。どうだ、息吹の役に立っているか?お前に手がかかっているようでは家に連れ帰るからな」
若葉がふるふると首を振ってにこっと小さく笑いかけた時――
「う、うぅん………っ」
「…息吹?どうした…?息吹」
主さまがうなる息吹の枕元で膝を折ると、息吹は額にびっしりと汗をかいており、震える手で主さまの着物の袖をぎゅっと握りしめた。
「陣痛が、きちゃった…っ。主さま、傍に、居てね…っ!若葉…お姉ちゃんのお手伝い、よろしくね…っ」
「う、うんっ。私お湯沸かしてくるっ。晴明様と山姫姉さまも呼んでくる!」
若葉が脱兎の如く部屋から飛び出して行き、主さまは玉のような汗を手拭いで拭ってやりながら、優しい瞳で息吹を見守り続けた。
また主さまもいつもよりさらに寡黙になり、百鬼がびくびくしつつもそうなっている理由がもちろん息吹であることはわかっているので何も言わないが、ひそひそ声は飛び交っていた。
「次は男か女か…。しかし毎年のように子が生まれるな。主さまは淡白に見えて意外と…」
「主さまが引退して息子に代を譲るのも遠い日じゃないな。しかしあの長男は…やんちゃで手がかかる。あれは息吹似だな」
…好き勝手言われているのは主さまもわかってはいたが、実際問題にやにや笑いが止まらない。
最近我が子の話題でもちきりになっているのも誇らしく、隣に銀が移動してくると、にやにや笑っているのを見られて慌てて表情を引き締めた。
「十六夜…今気持ち悪い顔をしていたぞ」
「…うるさい。それより俺はこれが終わったらすぐ晴明の屋敷へ行く。お前はどうする」
「俺も行く。若葉に会いに行ってやらないとぐずって泣いてしまうかもしれないからな」
「若葉が泣いている姿など見たことがないぞ。意外とお前が居なくとも平気なんじゃないか」
そう言われて無性にそわそわしてしまった銀は、結局百鬼夜行を終えるまで珍しくも落ち着きがないままで、終了の号令がかかると、主さまの腕を引いて風の如く走り出す。
また主さまも息吹の出産が今日か明日であることを知っているので、2人でわたわたしながら晴明の屋敷に着くと、徒競走をするような態で息吹の部屋へ向かい、すやすや眠っている2人を見てほっと息をついた。
「よかった、まだ生まれていなかったな」
「若葉、ちゃんと会いに来たぞ」
銀が呼びかけた途端、すやすや眠っていたはずの若葉の目がばちっと開き、がばっと飛び起きると、息吹が起きないようにして銀に駆け寄って無言で細い腰に抱き着いた。
「ぎんちゃん会いに来てくれた」
「当然だとも。どうだ、息吹の役に立っているか?お前に手がかかっているようでは家に連れ帰るからな」
若葉がふるふると首を振ってにこっと小さく笑いかけた時――
「う、うぅん………っ」
「…息吹?どうした…?息吹」
主さまがうなる息吹の枕元で膝を折ると、息吹は額にびっしりと汗をかいており、震える手で主さまの着物の袖をぎゅっと握りしめた。
「陣痛が、きちゃった…っ。主さま、傍に、居てね…っ!若葉…お姉ちゃんのお手伝い、よろしくね…っ」
「う、うんっ。私お湯沸かしてくるっ。晴明様と山姫姉さまも呼んでくる!」
若葉が脱兎の如く部屋から飛び出して行き、主さまは玉のような汗を手拭いで拭ってやりながら、優しい瞳で息吹を見守り続けた。

