主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※

晴明の屋敷に着くと、若葉は息吹の着物の袖を握りしめたまま言葉を失っていた。

主さまの屋敷よりも広い庭には池があり、女の人魚が泳いでいる。

母屋とは別に敷地内に違う建物があり、無言で瞳を輝かせている若葉の背中を押して草履を脱いだ息吹が転ばないように手を伸ばした男が居た。


「息吹、手に掴まりなさい。転んだりしては大変だからね」


「あ、父様。ありがとう、もしかしたら今夜陣痛がきちゃうかも…」


「心配するんじゃないよ、あたしもついてるからね」


「母様っ。うん、心配なんか全然してないよ。今回のお産もきっと安産だと思うし、若葉もお手伝いしてくれるから」


奥から出て来た晴明と山姫に代わる代わる頭を撫でられた若葉は、銀とよく似ている晴明の背中に無意識に引っ付き、皆を笑わせた。

銀とはさっき別れたはずなのに、なんだかもう銀を恋しくなってしまっていたが、気を引き締めて風呂敷を両手に握りしめると、息吹の手を引いてゆっくりと部屋の奥へと連れて行く。


「お姉ちゃんはここに座っててね。お茶を淹れてきてあげるっ」


「ありがとう若葉。張り切らなくてもいいからね」


若葉としては、銀が育て親だが――息吹が何から何まで世話をしてくれて、面倒を見てくれていたという自覚はある。

だからこそ積極的に料理を覚えたり裁縫を覚えたりして子供の面倒も見なくてはならない息吹の手伝いができるようにと日頃から勉強していたので、台所へ行くとてきぱきと準備をして息をついた時―


「やあ若葉。息吹の手伝いをしに来たと聴いたが…そんなに気張らずとも大丈夫だよ。もう何人目だと思っているんだい?」


「晴明様…。うん、でもお姉ちゃんのお手伝いしたいし、それにいい子にしてないとぎんちゃんに怒られるから。晴明様、しばらくの間ご厄介になります」


童子に似つかわしくなく畏まった態度で頭を下げた若葉を抱っこした晴明は、幼い頃の息吹を思い出して高い高いをしてあげて喜ばせる。


「きっと銀は毎日通って来るだろうから心配ない。さあ湯が沸いた。皆で茶を飲んでゆっくりしようか」


「はいっ。ぎんちゃん…明日ちゃんと会いに来てくれるかな」


「来るとも。百鬼夜行を終えたらきっとすぐに会いに来るだろう。十六夜と一緒にな。ふふふ」


つい意地悪晴明が顔を出してしまい、慌ててにたり笑いを引っ込めた晴明は、若葉と肩を並べて息吹の元へ戻った。