主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※

朔はしばらくの間その場から動かず、朧と雪男は朔の両隣に座って自発的に話しかけてくるまで待った。

こうして堪えている姿を見せることはとても珍しいことで、かける言葉も見つからずただひたすら待つ。


「…そういえば」


「うん」


「他の弟妹たちはもう帰ったぞ。お前たちに手紙を残していってる。俺が預かってるから読め」


顔を上げた朔はもういつもの朔で、雪男は朔と一緒に立ち上がると童の頃よくしていたように朔のさらさらな黒髪をくしゃりとかき混ぜる。


「なんだ、童扱いするな」


「俺にとっちゃ童だぜ。輝夜のことはあんま気にするなよ。本人戻ってくる気満々だったし、そんな遠い日じゃない気がするな」


「…そうだな、気長に待つとするか」


居間の机の上に置いてあった複数の手紙はそれぞれ朧と雪男に宛てられていた。

それぞれの特性が出ていて、長文を書いている者も居れば、短文を書いている者も居る。

ふたりは傍で朔が見守っている中すべての文を読んで、笑い合った。


「俺への文だけど…お前を泣かせるなとか主さまに迷惑かけるなとか、注意ばっかなんだけど」


「私への文は、お師匠様に泣かされたらすぐ家を出てうちに来なさいとか、そういうのばかりですよ」


「うん、まあとりあえず万が一喧嘩でもして一時家を出ていくときは先代のとこだけはやめてくれ。俺をすぐ殺しにやって来るからな!」


「お前たち喧嘩をすることなんかあるのか?」


「あるある!主さまも早く喧嘩してくれる嫁をもら…いでっ!」


朔に思い切り足をつねられて悲鳴を上げた雪男は、輝夜が掻き消えた庭に目をやって哀愁を漂わせて笑った。


「寂しくなるなあ。あいつ場を盛り上げる名人だったから」


「お前も得意だろ。輝夜の代わりに盛り上げろ」


「無茶言うなよ!」


あれほど騒がしかった屋敷は元通り静けさを取り戻す。

朔がこの静けさを寂しいと思ったのは、はじめてだった。