主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※

夜明けが近付くと、試しに襖を引いてみる。

するとすんなり開いたため、雪男は朧の手を引いて廊下に出て気配を探った。

…静かで誰の気配もない。

昨晩は百鬼夜行がなかったため朔たちは居るはずなのだが――

居間に進んで中を覗き込むと、まだ薄暗い縁側には朔と輝夜が肩を並べて座っていた。

朔の横顔がなんだかとても物悲しそうに見えた雪男は、唇に人差し指をあてて声を発さないように朧に示すと、しゃがんで盗み聞き体制に入った。


「もう行くのか」


「ええ、居心地が良すぎて長く滞在しすぎました。兄さん、世話になりましたね」


「大した世話はしてないが。輝夜…お前は危ない橋を渡ることも多いだろう。…欠けているものを取り戻したい気持ちはわかるが、命があってこそだ。無茶はするな」


少し切れ長の目を心配そうに伏せて声色を落とした朔の肩に頭を預けて寄りかかった輝夜は、ふうと息を吐いて明けてゆく空を見上げた。


「兄さんほどではありませんよ。…私もいつかはここに帰ってきて落ち着きたいなあ」


「落ち着けばいい。お前は頼りになる。傍に居てくれると心強いしありがたい」


――心から尊敬して敬っている兄に頼ってもらえて素直に喜んだ輝夜は、急に振り返って盗み聞きをしていた雪男ににっこり笑いかけた。


「出歯亀してる二人組がいますね。初夜はどうでした?」


「おう、そりゃもうどっろどろのぎとぎと…」


「馬鹿!な、何を言ってるんですか!ち、ちち違いますからね!


朔たちに歩み寄りながら焦って弁明すると逆にそれが迫真の演技に見えたのか、朔が吹き出し、輝夜はにんまりして朔の手を握った。


「いえね、私も昨晩は兄さんとどっろどろのぎとぎとな情事を…」


「馬鹿を言うなお前は。お前たち、輝夜に別れの言葉を」


雪男は黙り、朧は心細げに輝夜の傍に座ってその手を握る。


「輝夜兄様…」


別れなど来なければいいのに。

切にそう思って輝夜を見つめ続けた。