朧は長い時間戻って来なかった。
最初は緊張していたものの、待ちくたびれてうとうとしてしまい、一瞬記憶が飛びそうになった時――廊下側の襖から朧の声が聞こえた。
「お師匠様、開けて下さい」
「え?ああ、ちょっと待った」
慌てて起き上がって襖を開けると…朧は梨や葡萄といった果実と清酒の入った徳利と盃が乗った盆を手に困った顔をしていた。
「なんだこれ、どした?」
「私の部屋の前にあったんです。兄様なのかな」
「うーん…ま、とりあえず入れよ」
真っ白な浴衣を着た朧が部屋に入っていく際すれ違い、良い香りがしてどきっとしてぎくしゃくしながら襖を閉める。
「お師匠様もお風呂入ってきたらどうですか?」
「あー、じゃあそうするか。……んっ!?」
閉めた襖を開けようとしたが――開かない。
どれだけ力を込めようが、押しても引いても開かず、そこでようやく朔が何かしらの術を使って自分たちを閉じ込めたという考えに思い至った。
「なんだよ…気を使ってんのか?」
「開かないんですか?どうしよう」
「どうもこうも…まっ、とりあえず飲み直すか」
雪男となら酒を飲んで酔っ払っても構わないと決め込んでいる朧は、雪男と向かい合って足を崩して座ると、盃に酒を注いだ。
「今日はご苦労様でした」
「んや、ほんと疲れたよな。まあこれで晴れて夫婦になった。恐ろしい親戚連中が増えて冷や冷やするけどな」
「お師匠様が浮気して私を泣かしたり悩ませたりしなければみんな何もしないから大丈夫ですよ」
「嘘だ!難癖つけて文句言ってきそうな奴らばっかりじゃないか!」
互いに笑い声が漏れて空気が和むと、雪男は朧の女らしいやわらかな指を握って顔を近付けた。
「泣かせたりしないから、逆に俺を泣かせるなよ」
「…私が先に逝ったら…泣いてくれますか?」
「その時は…俺もただの雪に戻って、お前が転生するまで待つ。ずっと待ってる」
朧が雪男の膝に手を乗せて上体を傾けて背伸びするようにして、雪男の唇に唇を重ねた。
最初は緊張していたものの、待ちくたびれてうとうとしてしまい、一瞬記憶が飛びそうになった時――廊下側の襖から朧の声が聞こえた。
「お師匠様、開けて下さい」
「え?ああ、ちょっと待った」
慌てて起き上がって襖を開けると…朧は梨や葡萄といった果実と清酒の入った徳利と盃が乗った盆を手に困った顔をしていた。
「なんだこれ、どした?」
「私の部屋の前にあったんです。兄様なのかな」
「うーん…ま、とりあえず入れよ」
真っ白な浴衣を着た朧が部屋に入っていく際すれ違い、良い香りがしてどきっとしてぎくしゃくしながら襖を閉める。
「お師匠様もお風呂入ってきたらどうですか?」
「あー、じゃあそうするか。……んっ!?」
閉めた襖を開けようとしたが――開かない。
どれだけ力を込めようが、押しても引いても開かず、そこでようやく朔が何かしらの術を使って自分たちを閉じ込めたという考えに思い至った。
「なんだよ…気を使ってんのか?」
「開かないんですか?どうしよう」
「どうもこうも…まっ、とりあえず飲み直すか」
雪男となら酒を飲んで酔っ払っても構わないと決め込んでいる朧は、雪男と向かい合って足を崩して座ると、盃に酒を注いだ。
「今日はご苦労様でした」
「んや、ほんと疲れたよな。まあこれで晴れて夫婦になった。恐ろしい親戚連中が増えて冷や冷やするけどな」
「お師匠様が浮気して私を泣かしたり悩ませたりしなければみんな何もしないから大丈夫ですよ」
「嘘だ!難癖つけて文句言ってきそうな奴らばっかりじゃないか!」
互いに笑い声が漏れて空気が和むと、雪男は朧の女らしいやわらかな指を握って顔を近付けた。
「泣かせたりしないから、逆に俺を泣かせるなよ」
「…私が先に逝ったら…泣いてくれますか?」
「その時は…俺もただの雪に戻って、お前が転生するまで待つ。ずっと待ってる」
朧が雪男の膝に手を乗せて上体を傾けて背伸びするようにして、雪男の唇に唇を重ねた。

