主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※

「ぎんちゃん…ちゃんと会いに来てね。ちゃんと…」


「わかっているとさっき言っただろう?息吹、こいつが何かやらかしたらすぐ追い返していいからな。いい子にしていないと俺だって会いに行ってやらないぞ」


ふるふると首を振って息吹の腕にしがみついた若葉の頭を撫でた銀は、若葉を抱っこして牛車に乗り込ませると、同じように息吹を乗り込ませた主さまの肩を抱いた。


「息吹、こいつのことは俺に任せておけ。あとお前たちの子らのことも任せておけ。すぐに会いに行く」


「うん。主さま…また後でね。百鬼夜行さぼっちゃ駄目だよ」


「…ああ。早く行け」


主さまが強がりを言って御簾を下ろすと無人の牛車が走り出し、息吹と2人きりになった若葉は息吹の背中や腹を撫でてやり、目を丸くした。


「もう…生まれちゃうの?」


「うん、多分ね。明日か明後日か…若葉、お手伝いしてね。父様や母様も居るからなんにもしなくていいかもしれないけど、傍に居てくれると心強いな」


「うん。男の子の方が嬉しい?それとも女の子の方が嬉しい?」


問いかけると、化粧をしていないにも関わらず肌が真っ白でとても優しくて綺麗な顔立ちの息吹はにこっと笑いながら若葉の髪を撫でた。


「どっちでもいいよ。若葉もいつか赤ちゃんを生んで幸せになるんだから、予行練習だと思って見ててね」


「赤ちゃん…。ぎんちゃんの赤ちゃんを生みたいな」


何気なくぼそりと呟いた一言に反応した息吹は、腹が大きいにも関わらず若葉を膝に乗せて頬をくすぐった。


「銀さんが好きなの?」


「うん、ぎんちゃん大好き。1番好きだからぎんちゃんの赤ちゃんがいいな」


「そう…。それ銀さんに言っちゃ駄目だよ、お姉ちゃんと若葉だけの秘密のお話にしようね。でないと銀さんが驚いちゃうから」


「?うん、いいよ。あ、お姉ちゃん…私平安町に行ったのはじめて。幽玄町とは違うねえ」


少しだけ御簾を上げて平安町の街並みを観察している若葉の背中を見つめた息吹は、銀に抱いている感情が色恋なのかわからないのでとりあえず口止めをしておきながらも前途多難になりそうな予感に苦笑した。


「…ほんとに私と主さまの時みたい」


「え?今なにか言った?」


首を振った息吹は、どくどくと脈打つ腹を撫でながら愛しげに話しかけた。


「もうすぐだからね…」