主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※

いきなり襟首を掴まれて殴られるかと思って目を閉じたがーー


潭月は雪男の頭を童にするようにぐりぐり撫でてにかっと笑った。


「朧に見初められて良かったなあ。危うく行かず後家になるところだったものを」


「ちょ…その言葉使い方間違えて…ます…」


「お前が俺の息子の嫁にちょっかい出してかりかりする息子も可愛いが、お前のような強き男は子を作る義務がある。まあせいぜい精を出せ。そして我が一族の礎の一部として励むがいい」


てっきり怒られるかと思っていたが、話の内容はおおよそ褒められていたので呆気にとられていると、周がすれ違いざま雪男の腰を撫でて含み笑いをしながら中へ消えてゆく。


「ちょ、やめて…下さい…」


「俺の妻にもちょっかい出す気か?やっぱり殺しておこうか」


「お祖父様、お戯れはその辺で。皆が待っています」


ーー潭月と周はめでたい行事ごとにしか戻って来ない。

数十年単位で顔を合わせることがないため朔や輝夜を含め皆がふたりとの語らいを楽しみにしている。

この国だけでなく異国にもよく行くため旅先でどんなことがあったか面白おかしく話してくれるので、皆が輪になって早速話を待っていた。


「殺されるかと思った…」


「まああの話ぶりだとお前は合格ということだな。お祖父様の代まで鬼族としか血を結ぶことがなかったから俺も反対されるかと思っていた」


少し離れた所で潭月たちを眺めながら朔が言うと、雪男は朔の肩をぽんと叩いて力強く頷いた。


「俺は主さまが結ばれてはいけない相手と恋に落ちても応援するからな」


「それは頼もしいな」


「雪男、隣に来てたも」


周が甘い声でねだるとまた潭月が不気味ににっこり微笑み、雪男はまた後ずさりして首を振った。


「いや、俺は遠慮…」


「来てたも」


「俺の妻のおねだりが聞けんのか。ん?」


「あ…はい…隣…失礼します…」


根負け。