主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※

朧と離れて暮らす時間はある意味身を清めるいい機会となった。

屋敷に出入りする者が多く、どさくさに紛れて朔と接触しようとする女たちを追い返したり、いつも通り百鬼夜行の手筈を朔と決めたりーーそして朔の弟妹たちの相手…これが一番大変だ。

何せ赤子の頃からの付き合いなため遠慮がなく、普段は落ち着きのある彼らは雪男の前では無邪気な童に戻り、少し目を離すと部屋は荒れ放題やり放題に散らかされて雪男の叱る声が響き渡る。


「こらーっ!ちゃんと片付けろ!」


「やあよ、雪男が片付ければいいじゃない」


「なんでだ!ほら、手伝ってやるから」


結局は面倒見の良い雪男が手伝うことになり、朔が目を細めてそんな光景を微笑ましく見ていた時ーー何やら妙な気配を感じて首を傾げた。


「主さま、牛車だ。晴明が来たぜ」


「ん、分かった」

朔が門の前まで出迎えると、牛車から降りて来たのは晴明ではなくーー祖父の潭月だった。

年齢的にはもうかなり古参の部類だが老いた様子はほとんどなく、髪は朔位に短く、先代にそっくりな冷淡な美貌だが口元はいつも笑んでいる。


「おお、俺の可愛い息子の息子よ、また強くなったか?美しさが増したな」


「お久しぶりですお祖父様。残念ながら朧は父様の方にいますよ」


「そうか、では後で見に行こう」


「おい、早く妾を降ろさぬか」


急かされた潭月が牛車から抱きかかえて降ろしたのは妻の周だ。

鬼族の由緒ある家系の姫君で占いに長け、吊った目は深淵の如く深い黒で、手を差し出した朔の手を取って地に足をつけると、妖艶な美貌が満開の笑みに彩られる。


「朔よ、美しゅうなったな。嫁はまだかや?」


「ははは、雪男に先を越されてしまいました」


「今度良き姫を紹介してやる故楽しみにするがよいぞ」


「はい。で、祝言までこちらに滞在されますか?」


「俺の可愛い息子の息子や娘の顔を見に来たんだ。こちらで世話になる」


「うお…っ、先先代じゃん…」


「おお雪男…俺の孫娘に手を出した不届き者よ」


潭月がじわりと雪男に近付く。

冷や汗をかきながら一歩後退する雪男の肩をがっしり掴んだ輝夜がにっこり。


「我らは家族となるのです。どんなお叱りも受け入れなさい」


雪男の声にならぬ悲鳴が上がり、嗜虐的な笑みを浮かべた潭月が満足そうに指を鳴らした。