主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※

雪男が帰ると、朧は一人酒を続行している十六夜の傍に座って徳利を傾けてにこっと笑った。

横目でそれを見た十六夜が無言で盃を差し出し、酌をした朧は小さな頃していたように十六夜の膝に上がって笑みを誘った。


「…お前はもう童じゃないんだぞ」


「私はいつまでも父様の童です。ねえ父様、母様との馴れ初めを聞きたいな」


「そうだな…俺がいつも息吹を泣かせてしまう失敗談ばかりだぞ」


「聞きたいっ。朝までお付き合いします」


ーー普段饒舌ではない父が珍しくぽつぽつと出会った時から今までの話を語り出し、その内容の濃さに朧は緊張から何度も茶を飲みながら熱心に耳を傾ける。

色々あったとは聞いていたが今までその色々がどんなものか聞いたことがなく、いかにふたりが困難を乗り越えながら愛を育んでいったかーー

夜明けまでかかったその恋物語に朧は何度も泣いてしまい、十六夜の胸に顔を押し付けて背中を撫でてもらった。


いつも無表情で周りから怖いと言われがちな父だが、愛情深く育ててもらった自負がある。

こと家族が絡む事件が起きると必ず解決に導き、絆はいっそう深まった。


「…そろそろ息吹が起きてくるからやめよう」


「父様、今宵またお話を聞かせて下さい」


「…分かった」


「私はお師匠様との出会いからお話しますね」


「いや、それはいい」


断固として拒否されて頰を膨らませると、十六夜は懐かしむように朧を一度優しく抱きしめると、部屋へ戻って行った。


「すっごいお話だったな…」


母は強く優しい人だが、根本から芯が強く父を信じてまた父も母を諦めず思いやったかーー


「私もお師匠様とそんな夫婦になりたいな…」


恐らくそんなふたりを傍で間近に見ていた彼の心中は計り知れない。


そう思うと何だかむかむかしてきて足をぶらぶらさせていると、息吹と如月が起きてきて一緒に朝餉を作る。


父母と送る短い幸せな時間を忘れない。