主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※

元々口数が極端に少ないため、無言の時間が訪れることも多い。

十六夜が隠居してからもうかなり時が経っていたが、雪男はこの沈黙を懐かしく思って鈴虫の音を聞きながら盃を傾ける。


「…会って行くか?」


「へっ?あー…いや、今日は先代に会いに来たんだ。朧に会うのは祝言の日まで楽しみにしとくよ」


「…如月はお前に何もしてないだろうな?」


「あー、まあそれも危なかったけど大丈夫。小さかった頃から何も変わってなくてむしろびっくりした」


雪男に惚れて執着したのを無理やり嫁に出して引き離したのは十六夜だ。

最初は恨まれて実家に帰って来なかったが、夫と心を分かち合ってからは頻繁に文のやりとりをしていると聞いて雪男も胸を撫で下ろしていた。


「祝言まではこちらで預かる。もう帰れ」


「ああ。じゃあ行くよ」


腰を上げて門戸まで行こうとした時、視線を感じて玄関を見ると、戸が少し開いていて朧が顔だけ出してこちらを見ていた。


別れてからそんなに時間は経っていなかったが、何故かとても懐かしく、小さく手を振ると朧も振り返してきた。


口を開きかけたが縁側から十六夜が殺気を放ってきたため慌てて家を後にして歩き出す。


ーーまだ夢ではないのかと思ってしまう。

いつかは家族を持ってみたいと思いつつも、息吹に心を奪われた時それは儚い夢だと諦めかけていた。


「義父が先代で…?晴明も身内で…?え、待って、心が休まる縁者が居ねえ」


それに気づくと笑いがこみ上げてきて、そのまま屋敷に帰ると輝夜から眉をひそめられた。


「なんですか気持ち悪い顔をしていますね」


「失礼な!輝夜、今夜は飲むぞ。寝かしてやんねえ」


「ああその台詞、兄さんに言われたい」


「この変態が!」


「輝兄はこれが普通ですよ。さあ、今夜は飲み明かそうぞ」


三男の音頭で酒盛りが再び始まる。

ーー翌朝戻ってきた朔に瀕死の二日酔い状態で発見されて、怒られた。