主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※

都には人が統べる平安町と妖が統べる幽玄町があり、古来より夜半に往来を歩く者は妖に食われる可能性があると言われていたため、よほど豪胆な者でなければ歩くことはない。

雪男は虫の音しか聞こえない町を歩いて、十六夜が結界を張って人が入ってこれないようにしている屋敷の前に着いた。


朧はこの家で育った。

十六夜が隠居してから予期せず恵まれた子だったため、兄姉よりかなり歳が離れていたので、結果ここが生家だ。


背伸びして塀の上から中を覗き込むとまだ灯りがついている。

息吹は夜に寝るため起きているのは十六夜か朧ーー


「…早く入ってこい」


「うおっ!?せ、先代…居たのか…」


暗い庭にぽつんと佇んでいた十六夜にぎょっとした雪男は、小さくお邪魔しますと声をかけて十六夜に歩み寄る。


…相変わらずの無表情に無口。
現在でも衰えることのない外見は圧倒的な力を保持しているためだ。


「朧には会わせんぞ」


「いいや、今日は先代に会いに来た。…俺と朧のことを認めてくれて感謝してる。ちゃんと礼を言ってなかったなって思ってさ」


「…認めたくないが認めざるを得んだろうが」


半妖であれど人と雪男が溶けることなく触れ合える奇跡ーー

雪男が息吹に惚れていた頃は、何かの拍子で手に触れたりした時、雪男はいつも火傷を負っていたことを思い出す。


「先代が義父さんか…ふふ…」


「……二度と俺に義父さんなどと呼ぶな。今度こそ殺すぞ」


凄まれて肩を竦めると、十六夜は雪男を縁側に呼び寄せてその手に盃を持たせた。


「ちょ、ちょっと待…さっきまで先代の子達と酒盛りさせられてたんだぞ…」


「うちの者になるつもりならそれしき当然だ。…できんならそれでもいいが」


「はあっ?できる!できます!」


十六夜の長い髪を束ねている髪紐についている鈴がちりんと鳴る。

酒を注がれた盃を一気に呷って咳き込むと、十六夜はとても度の強い酒をあっけらかんとした顔で飲み干した。


「お前は朧に選ばれた。光栄に思え」


「はいはい、こんな俺を選んでくれて光栄に思ってますよ」


ーー十六夜がふっと口角を上げて笑った。

憧れ続けた男に認めてもらえた嬉しさに、酒が進んだ。