主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※

平安町の息吹の実家でしばらく暮らすことになる若葉はその夜なかなか寝付けなかった。

それもこれも、息吹の身の回りの手伝いをするのが楽しみでもあったのだが…銀が久々に腕枕をして添い寝してくれたからだ。


「ぎんちゃんあったかい。今日は百鬼夜行に行かなくてもいいの?」


「ん、今日は十六夜に許可をもらったからいいんだ。そういえばお前の手足は冷たいな、冷え症か?これから寒くなるし、火鉢を買って来てやる。それよりも…」


銀の瞳には夜目にも爛々と瞳を輝かせている若葉の顔がはっきりと見えていたが、人である若葉は銀の顔がなかなか見えないらしく、唇が触れ合いそうな距離まで顔を近付ける。


「俺の名は“ぎん”じゃなくて、し、ろ、が、ね、だー」


「だって呼びにくいんだもん。ぎんちゃんほっぺ痛いから引っ張んないで」


若葉の両頬を引っ張って伸ばしていると、若葉が少しだけ身震いをしたのでぎゅうっと抱きしめてやった銀は、火鉢とあたたかい布団を買って来てやろうと密かに決めて諭した。


「息吹はこれからますます忙しくなるから駄々をこねたりするんじゃないぞ。あと…」


「うん、わかってる。ぎんちゃんの顔どこ?あったー」


手探りでぺたぺた顔を触られまくった銀の唇を見つけた若葉は、頬ずりをして抱き着くと、ようやく欠伸をした。

寒いから眠れなかったのかと考えた銀が背中を擦ってやったり脚を絡めてあたためてやったりしているとようやく寝息が聞こえて、また銀も子供の体温の若葉にまどろみ、眠りに落ちてゆく。


翌朝、すでに荷物をまとめていた若葉は朝餉を作ることもなく息吹に貰った橙色の着物を着ると、銀の肩を揺すった。


「ぎんちゃん、朝。私もう行くから…ぎんちゃん?」


揺すっても起きない銀に唇を尖らせた若葉は、横向きに眠っている銀の尻尾を力いっぱい抓り、悲鳴を上げさせた。


「こら、痛いじゃないか」


「ぎんちゃん、主さまの所に連れてって。おんぶしてもらいたいな」


「甘えん坊め。さ、背中に乗れ。ああしかしよく寝たな…。お前が湯たんぽみたいで気持ちよかった」


「うん、ぎんちゃんもあったかかった。ぎんちゃん…ちゃんと会いに来てね。毎日がいいな」


“ちゃんと帰って来てね”から“ちゃんと会いに来てね”に変わり、若葉をおんぶして家を出た銀は駆け足に坂を下って若葉を喜ばせながら何度も約束をした。


「ああ、必ず行く。絶対だ」


もう実の娘のように感じていた。