主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※

猫又のふかふかの腹に紐で荷を括り付けると背に乗り、何故か出発を急かす雪男と共に空を駆けた。


「お師匠様どうしたんですか?」


「如月に見つかるとうるさいからな。朧、寒くないか?」


「大丈夫です」


朧が前に乗り、雪男がその背中に密着して猫又の鼻先につけた綱を握っていた。

遠出する時は綱をつけて落ちないようにしているが、馬のように揺れることはほとんどないため一応の用心だ。


朔に木天蓼を貰ったり猫又用の大きな櫛で毛並みを整えたり世話をされたおかげでとても機嫌の良い猫又の速さは並ではない。

虎柄の縞々の沢山ある尻尾は風にそよぎ、時々朧が手を伸ばして耳や頭を撫でてあげていたのがまた良かったらしく、昼過ぎには雪男と朧が再会した集落に着いていた。


「ここから先は大きな集落がないからここに泊ま……朧?」


猫又から降りてふたりと一匹で集落に入って通りを歩きながら話していると、朧が急に立ち止まって固まった。


「どうした?」


「こ…ここに泊まるんですか?」


「だからこの先集落が……ああ…もしかして…思い出したのか?あの時のこと…」


言わば初夜を過ごしたともいえる宿屋の前で顔を赤くして俯いた朧を見てそれが伝染して雪男も口を手で覆って赤くなる。

ふたりの邪魔には決してなるなと朔から言い聞かされていた猫又がぴょんと木の上に飛び乗って居なくなると、雪男は朧の頭に手を乗せて撫でた。


「まあその…なんだ…あんなことはしないよ。だから怖がらないでくれ」


「…別にしてもいいんですよ」


「えっ?」


「なんでもありません!入りますよ!」


もう吐く息は真っ白で、身震いした朧が率先して宿屋の暖簾をくぐり、実は聞こえていた雪男は頰をかきながらぽつり。


「参ったな…」


何故男の自分が身持ちが固く、女の朧が柔軟なのか。

据え膳食わぬは男の恥。

淡い期待を抱きながら暖簾を潜った。