主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※

朧と夫婦になることが発表されて以来、堂々と朧の部屋に出入りすることができるようになった。

ただし、祝言までは手を出さないと雪男が固く誓いを立てたため、朧が悶々とする日々が続く。


「お師匠様。触ってもいいですか?」


「場所によるけどどこだ?」


「……」


「黙るな!怖いわ!どこ触るつもりだったんだ!」


後退る雪男に唇を尖らせた朧は、自分だけが欲求不満のように感じて長い髪をかきあげてうなじを見せてみる。


「もう私のこと飽きたんですか?」


「はっ!?あ…飽きるわけないだろ…。晴明の奴から連絡来るのを待ってんの!日取りが決まればお前…そりゃあ…したいけどさ…」


我慢強い雪男に対して朧はそうでもない。

雪男の膝の間に割って入ると、ぎゅうっと抱きついてため息をついた。


「私は…したいな…」


「やめろやめろ!誘惑すんな!主さまに言いつけるぞ!」


「兄様は一度手を出したら二度も三度も同じって言ってました」


「お、おいおい…なんて助言をしてんだ!」


真っ青な目がまん丸になり、着物から覗く素肌の胸元に頰を寄せた朧が潤んだ目で雪男を見上げて目を閉じる。


…襖も庭に通じる障子も閉まっているのでここは密室だ。


もうこそこそする必要はなかったが用心を期して人前で朧に触れることをしていない雪男は、細い身体に腕を回して顔を近付けた。


その時ーー

障子が突然内側に吹っ飛んできて咄嗟に身体を盾にして朧を庇った雪男は、何が起きたのかと混乱しながらも雪月花を顕現させて逆光で姿の見えない者を見据えた。


「何者だ!?」


「貴様!私の艶声を忘れたか!」


その強い口調と腰に手をあてて仁王立ちしている姿に雪男が明らかにぎくっとして固まる。


「お、お前は…」


「よもや私のことを忘れたわけではあるまいな?愛しい私の人形よ」


ずかずかと上がり込んできた謎の人物に朧が突進して抱きついた。


「如月(きさらぎ)姉様!お会いしたかったです!」


朔と輝夜が予言した嵐がとうとうやって来て、雪男の顔を引きつらせた。