主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※

小さな頃によく着ていた山吹色の着物を着た若葉は殊更可愛らしく、一緒に荷物の準備をしてやった息吹は銀に頭を下げた。


「じゃあ銀さん、明日から若葉をお預かりします。主さまや父様たちも居るし、危ないことなんて全然ないから」


「ああ、わかってる。それより息吹、今日は俺は家に居ることにしたんだ。どうだ、すごいだろう?」


「え、銀さんが?若葉のために?…へえ、ふうん、若葉よかったね。銀さんにたっぷり甘やかしてもらってね」


「うん。お姉ちゃん、このお着物ありがとう。明日から私がお姉ちゃんをお手伝いするから、なんでも言ってね」


あまり表情が動かないが故に、若葉は笑うととても可愛い。

銀はちらちら耳と尻尾を盗み見している息吹を抱っこして膝に乗せると、今にも爆発してしまいそうに大きな息吹の腹を恐る恐る撫でた。


「いつ生まれるんだ?十六夜は立ち会うんだろう?」


「あと数日ってとこかな。はじめてのお産じゃないから大丈夫って言ったんだけど、“絶対立ち会う”って言って利かないの。雪ちゃんも立ち会いたいって言ってくれたけど、主さまに怒られてたよ」


「ふふ、それはそうだろうな。だが息吹…俺も立ち会いたいんだが…駄目か?」


「銀さんが?主さまがいいって言ったらいいよ。若葉も立ち会ってくれる?」


「いいの?うん、見たい。赤ちゃん抱っこしてもいい?」


瞳を輝かせて童子らしい一面を見せた若葉の頭を撫でて頷いた息吹は、重たそうな腹を抱えて立ち上がると、ゆっくりゆっくり戸に向かった。


「じゃあ今日は親子水入らずで過ごしてね。若葉、明日迎えに来るから。他のお着物も見せてあげる。気に入ったらあげるからね」


嬉しさのあまり銀の背中にしがみついて顔を隠した若葉にきゅんとした息吹が手を振りながら去ると、少しだけ嫉妬した銀は、若葉の両頬を伸びるだけ引っ張った。


「俺の前でも嬉しそうな顔をしてみろ。お前ちゃんと笑えるじゃないか」


「じゃあぎんちゃんが笑わせてみせて」


「なに?うーん…」


考えに考えたが、若葉が笑いそうな冗談を一切思いつくことのできなかった銀は、ふてくされて畳に寝転がった。

すると若葉が銀の身体によじ登ってべったりくっつくと、銀はくんくん鼻を鳴らして若葉の首筋を嗅いでみた。


「ぎんちゃん?」


「うん、餓鬼だ。乳臭さが抜けるまであと10年はかかるな。うん、安心安心」


何に安心したのか自分でもよくわからなかったが、とにかくなぜか安心した銀は、そのまま若葉と一緒に昼寝をして過ごした。