主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※

一通り絞られた後ぐったりした雪男は客間にひとり寝転がっていた。

すると傍に誰かがやって来て顔だけ上げると、白兎がむすっとした顔で立っていた。


「お前はー…俺、故郷に帰れって言わなかったか?」


「ひとりで帰るわけないじゃないですか…。お兄様、朧様と本当に夫婦におなりになるんですのね」


「んん、そうだな。やっとだ。長かった…」


万感の思いでまた突っ伏した雪男をしばらく見つめた後白兎が向かったのはーー朔の元だった。

朔といえば今まで不機嫌だったのが嘘みたいに上機嫌で、机に向かって文を書いていた。

…もう先延ばしにすることはできない。

白兎は一度咳払いをして気を引くと、筆を持ったままじっと見つめてくる朔の視線に耐えきれずにかなり離れた場所で正座した。


「主さま…」


「どうした」


「私は主さまをお慕い申し上げております」


ーーつまり率直に好きだと言われた朔は愛の言葉など聞き飽きているが、勇気を振り絞って目の前で告白する者を無下にはしない。


「そうか。お前は男を見る目があるな」


焔にも同じようなことを言われたなと思い出してはにかむと、机に頬杖をついてにやりと笑った。


「で?どうすればいいと?」


「え…っ、ど、どうすればとは…」


「抱いてくれ、とか?」


火がついたように顔を赤くした白兎の心の限界を悟った朔はそこでからかうのをやめて、手招きして白兎を傍に呼び寄せた。


「冗談だ。白兎、俺は今女にうつつを抜かしている暇はない。お前の想いは汲んでやりたいが、触れると凍ってしまうからな」


心が通い合わなければ互いに無傷ではいられない。

唇を引き結んで泣くのを耐える白兎を見つめた朔はーー膝の上でさらに真っ白になるほど握り締められている手にそっと手を重ねた。

途端に感じる鈍い痛みと、白兎もまた引きつったように熱い痛みを感じたが…惚れた男に触られた喜びに拒絶することができない。


「朧と雪男はこの痛みを感じない。だが俺たちは感じる。心が通い合ってないからだ」


「…はい」


「お前は可愛らしくまだ若い。雪男はお前を気にかけている。俺はお前を幸せにしてやれないが、祝言を挙げるまでは滞在していってくれ」


ーー普段女に声をかけることもなければ目も合わせない朔に気にかけてもらえてそれだけで十分。

白兎は大きく頷き、朔は白兎の頭を撫でる。

それは白兎の一生の思い出となった。