主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※

地下牢は雪男の部屋のさらに下に存在する。

さらにその下はーー許された者だけしか通れないように強力過ぎる結界が張られていた。


地下牢からさらに下に続く階段からは生暖かい淀んだ空気が雪男と朧の頰を撫でた。


「朧、そっちは駄目だ。こっち」


雪男の部屋の階から下に行ったことのない朧は手を引かれて地下牢の入り口に立つ。

薄暗く、ひとつしかない最奥の牢には、真白き獣ーーいや、焔がぽつんと座って目を閉じていた。


「来ましたか…。私を責めに?」


「焔…お前はよくも引っ掻き回してくれたもんだな」


焔の傍らには若葉が座っていたが、雪男はその手を引っ張って立たせると、珍しく不安そうにしているその頭を撫でた。


「殺したりしないって。まあ殴る位はいいよな?」


「うん…うちの子がごめんなさい」


「お前が謝ることじゃない。焔にちゃんと謝ってもらうから。ほら、上がって待ってろ」


捨て子だった若葉を育てたのはほぼ息吹だったが雪男もまた若葉を可愛がり、面倒を見て来た。

あまり表情のない若葉の僅かな機微も読み取ることができ、朧を密かに嫉妬させていたが本人は気付いていない。


「これで当事者だけになったな。焔、お前は何してくれてんだこら」


駄々っ子を叱るような口調。
焔は八重歯を見せて苦笑すると、檻を掴んで顔を近付けた。


「こんなはずではなかった…」


「…そうだな、俺たちは皆それぞれ勘違いしてすれ違った。お前はただ主さまに見てもらいたかっただけなんだよな」


ーーまだ何も語っていないのに心を読み取られてくっと唇を噛んだ焔は、怒りを見せずに静謐な静けさの雪男をある意味羨望の眼差しで見つめる。


「お見通し…というわけですか」


「俺も先代と出会ってからはずっとお前みたいに盲目に憧れてたよ。でもそれってさ、皆がそうなんだ。だからこのままじゃ駄目だって俺は思ったんだ」


焔と心を重ね合わせる。

朧とはそんなふたりの邪魔にならぬよう、気配を消して部屋の隅で彼らを見守っていた。