主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※

長年、このぞんざいで我儘な自分の傍に居てよく耐えたと思う。

朧や息吹のことを抜きにしてもその功績は誰からも讃えられるものだ。

雪男を百鬼夜行に出さず屋敷を守らせたのは最上級の賛辞だ。


あの屋敷の秘密を知る者はーー一族の限られた者たちと、雪男しか居ないのだから。


「俺が死んで丸く収まるとでも思ってるのか?」


「思っていない。だがお前には何としても粛清を加える。俺の…娘をよくも!」


…実はそんなに怒っていない。

百鬼夜行に出ると言い出したのは、その強さを見せて功績を挙げたいからだろう。


そんなものーー俺の側近になった時点で挙げたようなものだからな。


「もう後には引けない。先代、俺はあんたに勝ちたいわけでもなく殺したいわけでもない。たたまたま惚れた女があんたの身内だったってだけのことさ」


激しく打ち合いながらも会話は続く。

十六夜と相対して会話をするなど誰にでもできるものではなく、実際雪男の雪月花は何度も十六夜の長い髪を数本削っては間合いを取らせていた。


「…ふん、趣味は悪くないところだけは褒めてやる」


「どうも!ふう、やっぱ強いな。先代、朧は俺が貰う。もう魂も契った。俺たちは…ひとつだ」


いちいちいらいらさせられるが、傍で観戦している朔と輝夜は幼い頃から雪男の後をついて回るほど懐いていたし、子らは皆がそう育ったといえる。


…正直言って子のひとりくらいはやってもいいとは思っていたが、いざそれが現実となるとなかなか受け入れ難いものだ。


「…氷雨」


「お、おう、なんだよ…急に呼ぶなよな…」


「……俺は世にも恐ろしき小舅となるぞ」


「…え…」


「お前を時々こうして試し、力を示させる。朧が泣けば、お前を八つ裂きにする。朔がお前に飽きれば速やかに百鬼を抜けて家業の裏方に従事させる。それでもいいのか」


雪男が唖然としながら雪月花を下げた瞬間ーー十六夜が目にも留まらぬ速さで雪男の右腕を切り落とした…ように見えたが、瞬時に肌を氷で硬化させ、儚く高い音が響いた。


「おお、あんなこともできるのか」


「戦闘向きではない種族ですが、やはり我らの師はやりますね」


朔と輝夜がうんうんと頷いたところで、勝負は決した。


「卑怯だぞ!」


「終わりだ。…馬鹿馬鹿しい、やってられん」


くるりと踵を返した十六夜は、晴明に取り押さえられていた朧の頭を撫でた。


「…根負けした。嫁に出してやる」


「父様!!」


朧が抱きつく。

その背中をいつまでも、撫で続けた。