主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※

祝言を挙げるまでは身体は許さないーー

人の慣わしを重んじる母の息吹からそう教わった朧は今もそれを疑っていなかった。


…身体の震えが止まらない。

芯から冷えきった身体を雪男がなんとか温めてくれているが、間に合わない。

今から風呂に入れば身体は温まるだろうが…雪男から離れたくはない。

ようやく誤解が解けて、心を確かめ合って、これからどうしようかという所まで戻ることができたのだ。


「全然温まらないな」


「私…やっぱりお風呂に…」


「離れたくない。…こうしよう」


ーー朧の身体を起こした雪男が徐ろに袖から腕を抜いて上半身裸になった。

驚きに目を見張る朧の肩にそっと触れた雪男は、そのままゆっくり指を動かして肩まではだけさせた。


「お、お師匠様…?」


「肌と肌で直接温め合った方が早い。目を閉じてるから上だけ脱いで。脱いだら俺にもたれかかって」


それは有無を言わさぬ口調で、逡巡した朧は近い未来この男のものになるのだし、恥ずかしいが寒いし、しのごの言っていられない、と思った。


「み、見ないで下さいね」


「前にも何度か見たけど一応目を閉じてるよ」


本当に目を閉じてくれている。
朧は帯を緩めて上半身裸になると、恐る恐る雪男に身体を預けた。


ーーそのあたたかさと言ったら。


「あったかい…」


「はは、俺の身体があったかいとか言えるのはお前だけだからな」


「…雪女さんはあったかく感じるんでしょ」


少しむっとした表情になった朧の身体のあたたかさと柔らかさーー

久しく女を抱いていない雪男には拷問のような仕打ちだったが離れずに温まる方法はこれしかなく、優しく朧の耳に触れて耳元で囁く。


「これからはお前だけだって」


「私は…今もこれからも、あなただけのものですから。お師匠様、あったかい…」


耳元にかかる雪男の息に身を竦めると、面白がった雪男がさらに息を吹きかけて、耐性のない朧は身体から力が抜けて雪男に覆い被さるようにして畳に倒れ込んだ。


「…っ!ご、ごめんなさい」


「……なあ、俺のものにならないか」


「…え…?」


「今ここで。俺のものに…ならないか?」


月の光が窓から差し込み、息の止まる朧の表情を照らし出した。