夕暮れ時の空を朔が見上げた。
そろそろ戻らなくては百鬼夜行に間に合わなくなる。
次の集落を越えると雪男の故郷が近いため、ここに居る可能性が高いと朔は予想していた。
「兄様…お師匠様は居るんでしょうか」
「うん、ここに居るだろう。朧、お前はちゃんと言いたいことをまとめたかい?いざ顔を合わせて何も話せないなんてことにはならないようにね」
「はい…」
集落の入り口に着くと一つ目小僧が飛び退って膝をついて頭を下げた。
「ぬ、主さま!」
「こちらの事情は知っているようだな。…居るな?」
「は、はい、宿にお通ししております」
「俺はもう行くが、この娘を宿に案内してくれ。できれば人払いを」
「に、兄様…」
「後はお前だけで雪男と話しなさい。朧、明日一緒に戻って来るんだよ」
「はい…!」
一度朧をぎゅっと抱きしめた朔が去り、一つ目小僧に宿屋に案内された。
すでに人払いが済んでいるのか気配はなくーーただ、雪男の気配はした。
「お師匠様…」
暖簾をくぐり、下駄を脱ぎ、二階の客間に通じる階段を上がる。
がらんとした廊下。
暗くならない程度に明かりが灯されていて足元は見えるが…緊張で目の前がぐるぐるした。
一番奥の部屋から雪男の気配がして、恐る恐るその前に立つ。
そして声をかけようとした時ーー
「…何の用だ?」
冷たく尖った声。
拒絶の色が濃い声色に朧は身を竦めて震える両手を握り締めた。
「お話…したいことが…あるんです…」
「もう何も聞きたくない。…早く帰れ」
「…っ、帰りません…!お師匠様、私の話をどうか聞いてください。ここを…開けて下さい」
沈黙の帳が下りる。
自分に会いたくないという雪男の決意は固く、泣きそうになった朧はなんとか気持ちを堪えてその場に正座して座り込んだ。
「ここに居ます。あなたが会ってくれるまで、ずっと」
ーー襖を挟んで同じように雪男も座り込む。
追って来たのは朔だけではなく朧もだったことに歯を食いしばり、頑なに会おうとする朧のまっすぐさに拳を握り締める。
「…なんで…」
腹の子もその身も自分のものではない女に心を縛られてしまうのか。
その声だけで頭がおかしくなりそうなのに。
そろそろ戻らなくては百鬼夜行に間に合わなくなる。
次の集落を越えると雪男の故郷が近いため、ここに居る可能性が高いと朔は予想していた。
「兄様…お師匠様は居るんでしょうか」
「うん、ここに居るだろう。朧、お前はちゃんと言いたいことをまとめたかい?いざ顔を合わせて何も話せないなんてことにはならないようにね」
「はい…」
集落の入り口に着くと一つ目小僧が飛び退って膝をついて頭を下げた。
「ぬ、主さま!」
「こちらの事情は知っているようだな。…居るな?」
「は、はい、宿にお通ししております」
「俺はもう行くが、この娘を宿に案内してくれ。できれば人払いを」
「に、兄様…」
「後はお前だけで雪男と話しなさい。朧、明日一緒に戻って来るんだよ」
「はい…!」
一度朧をぎゅっと抱きしめた朔が去り、一つ目小僧に宿屋に案内された。
すでに人払いが済んでいるのか気配はなくーーただ、雪男の気配はした。
「お師匠様…」
暖簾をくぐり、下駄を脱ぎ、二階の客間に通じる階段を上がる。
がらんとした廊下。
暗くならない程度に明かりが灯されていて足元は見えるが…緊張で目の前がぐるぐるした。
一番奥の部屋から雪男の気配がして、恐る恐るその前に立つ。
そして声をかけようとした時ーー
「…何の用だ?」
冷たく尖った声。
拒絶の色が濃い声色に朧は身を竦めて震える両手を握り締めた。
「お話…したいことが…あるんです…」
「もう何も聞きたくない。…早く帰れ」
「…っ、帰りません…!お師匠様、私の話をどうか聞いてください。ここを…開けて下さい」
沈黙の帳が下りる。
自分に会いたくないという雪男の決意は固く、泣きそうになった朧はなんとか気持ちを堪えてその場に正座して座り込んだ。
「ここに居ます。あなたが会ってくれるまで、ずっと」
ーー襖を挟んで同じように雪男も座り込む。
追って来たのは朔だけではなく朧もだったことに歯を食いしばり、頑なに会おうとする朧のまっすぐさに拳を握り締める。
「…なんで…」
腹の子もその身も自分のものではない女に心を縛られてしまうのか。
その声だけで頭がおかしくなりそうなのに。

