主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※

一つ目小僧が長老だと案内した男は、身の丈は屈まなくては顔が見えないほど小さく、そもそも顔が毛むくじゃらで全身毛玉のようで、どこに目があるかも分からなかった。


「雪男様ですな?お待ちしておりましたじゃ」


「はあ…なんで俺がここに来るって知ってたんだ?」


「主さまが追って来とるからですよ」


…一瞬思考が停止した。

追われるほど怒らせたのか?
しかし酒を飲んで思い出話に花を咲かせたあの時は朔は自分の決意を受け入れていた風だったのに。


「ああいや、俺が悪さして追われてるとかじゃなくて…」


「それは分かっとります。あなたが寄った集落全てに出向かれとるようで、ここにも直に来られるでしょう」


集落の一番奥にある木の上にある長老の住処でそう説明を受けた雪男は、普段落ち着きのある朔がこうまでして追って来ていることに考えを巡らせる。

…何か予想もしないことが起きたのか?
もしや…焔がまたさらにとんでもないことをやったのか?


「すまない、迷惑かけるつもりじゃなかったんだ。すぐ出て行くよ」


「いいえ、宿を手配しとりますから、今夜はゆっくりしていって下され」


「え?」


「我らは主さまの怒りを買いたくはないのです。どうやら主さまはあなたに少しだけ話があるとのこと。儂は各地の集落の長からそう報告を受けておりますんで間違いありません。あなたがここから出て行ってしまうと何をされるやら」


朔は集落ひとつ丸焼きにしたりはしないが、その強さ故に噂には尾びれ背びれがつく。

雪男も集落に住まう者たちを無駄に怖がらせるようなことは望んでいないため、表情の分からない長老に深く頭を下げた。


「迷惑をかけてすまない」


「いやいや、儂らもあなた様や主さまをお迎えする日が来ようとは思わなんだ。宿は貸切にしておりますんで、ごゆるりと」


ーー何が起きているんだろうか?

雪男が首をひねりながら去ると、一つ目小僧は長老にこそりと声をかけた。


「主さまと一緒にいるというたいそう美しい女の話はしなくていいんで?」


「それは下世話というもんじゃ。我らが口を出していい話ではない」


何も知らず宿に向かう。

集落に朔と朧が近付いていた。