主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※

妖の中にも良心を持つ者は多い。

大抵は人型で、人と接したり人を食うことはなく、同じ志を持つ者同士で集落を作り、共に住んでいる者が居る。


「あ、彼の方は…主さまでは」


鬱蒼とした森の入り口に妖しか入らないように結界が張られていた。
ここを人が通ると道に迷ったり、異界に足を踏み込んだ時特有の不安感に陥いる。


入り口に着くなりざわつく面々。
朧は森の中に作られたちゃんとした多くの建物や店屋に目を奪われていたが、朔はすでに正体が露見してそれを隠すことなく近くにいた小鬼を捕まえた。


「俺がその主だ。すまないが俺の側近を捜している。ここに居ないか」


「い、いや…来たようなそうでないような…」


「寄ったのは分かっている。今居るか居ないか、どちらかを聞いている」


至近距離で朔から笑いかけられてしまえば一巻の終わりーー小鬼はすらすらと事情を明かした。


「明け方来て俺たちと少し情報を交換して去りました」


「情報?」


「異国に渡るにはどうしたらいいかとか」


それを聞いた朧が朔の袖を握って引っ張る。
ここに居ないのならばもう用はない。

むしろ異国に渡ろうとしている雪男を早く見つけて全ての真実を明かさなければ。


「助かった。どっちの方へ行ったか分かるか?」


「北の方でしたが…」


手を上げて小鬼と別れた朔は、朧の肩を抱いてまた入り口へと引き戻す。


「やっぱり一度は北国の故郷に戻るみたいだな。あいつ…俺が追ってくるとは思いもしてないだろう」


「?何故…ですか?」


ーー朧と二度と会わないという条件を飲むならば戻ってもいい…雪男はそう言った。
だから今出奔したとしても再び戻るのだから追って来ないだろう、と思っているはずだ。

だが朔はそれを朧に明かさず草の上をごろごろ転がっていた猫又の喉を撫でてやって背中に乗り込む。


「ま、男同士の話だよ」


「兄様、お師匠様の故郷に先回りすれば…」


「いや、お前と氷麗を雪男より先に会わせたくない。順を追って行けば必ずどこかでかち合う」


焦る心をなんとか落ち着ける。

この身も魂も、今も昔もあなたのものだと早く伝えたい。

そしてあなたの身も魂も私のものだと、胸を張って言い放ちたい。