主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※

もう風が冷たい。

緋色の打ち掛けを頭から被って全身を包んで風から守った朧は、朔の腕にしっかり抱かれてどこかへ向かっていた。


「兄様!どこに向かってるんですか!?」


「各地には妖の集まる集落が点在している。雪男はそのうちの何箇所かに寄るはずなんだ。故郷に戻るとしても一日では行けないからね」


ーー朔の声が弾んでいたので朧が首を捻って振り向く。

至近距離にある朔の形の良い唇は僅かに笑んでいて、目が合うと目尻を下げて無邪気に笑った。


「お前は焔に何かされたわけでもなくもちろん腹に子も居ない。問題が全て解決するね」


「しませんよ、焔さんのことどうするの?」


「うーん…半分は俺のせいだって認識してるから放逐まではしないかもだけど、まだ処罰は決めてない。なにせお前と雪男を苦しめ抜いたんだ。何かしらの罰は受けてもらう」


朧は朔の着物の胸元をぎゅっと握って懇願した。


「私が早とちりして勘違いしたから焔さんは言い出せなかったんです。兄様お願い、厳しくしないであげて」


溺愛する妹の頼みとあらば無条件で頷いてやりたかったがーー


雪男が先代の父の時代から仕えていて、自分を赤子の頃から父が不在の時はずっと傍にいてくれて、父のように兄のように身近に感じていた男が、自分の元から去るというあり得ない決断をさせた元凶に本当は甘い処罰などで済ませたくはない。

だが一番苦しんだはずの朧は寛大なる処罰を望んでおり、真実を今から知る雪男も恐らく焔につらくあたったりなど性格上しないはず。


「…そうだね、お前がそう言うなら前向きに検討するよ」


「!兄様ありがとう!」


猫又がずっと喉を鳴らしている。
朔が背中に乗ることなど滅多にないため、緩やかに止まると鬱蒼とした森の広がる眼下を見つめた。


「ひとつめの集落に着いたにゃ」


「よし、下りよう」


どこまでも逃げるつもりなら必ず追い掛けて追い詰めて鼻先で笑ってやるのだ。


とんだ茶番だったぞ、と。